麗しの島から

燃える香港の陰で「眠るマカオ」 薄い民主派の存在感

福岡静哉・台北特派員
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習近平国家主席を歓迎するために空港で待つ子供たち。「熱烈歓迎 習近平主席」の文字は、マカオで使われる旧字体に似た繁体字ではなく、中国本土で使われる簡略化された簡体字だ=マカオ国際空港で2019年12月18日、福岡静哉撮影
習近平国家主席を歓迎するために空港で待つ子供たち。「熱烈歓迎 習近平主席」の文字は、マカオで使われる旧字体に似た繁体字ではなく、中国本土で使われる簡略化された簡体字だ=マカオ国際空港で2019年12月18日、福岡静哉撮影

 マカオがポルトガルから中国に返還されて12月20日で20年を迎えた。マカオは香港と同様に「高度な自治」が保障された1国2制度が適用されているが、デモは少なく、住民は中国政府に好意的だ。現地を訪れた習近平国家主席は繰り返し、マカオの「成功」をアピールした。ベテランや若手の立法会(議会)議員3人に、民主派の存在感が薄い理由やマカオ社会の実態、中国政府との関係などについて聞いた。

跳びはねる「香港鳥」と眠る「マカオ鳥」

 マカオでは返還前から親中派団体が強い影響力を持ち、中国政府に対する親近感が強いと言われる。返還後は、カジノ産業を外国資本に開放したことで投資が相次ぎ、経済は飛躍的な発展を遂げた。税収の7割以上はカジノ関連で賄われ、失業率は返還時に6・3%だったが、2018年は1・8%と大きく改善した。08年度以降は毎年、市民に「富の還元」を名目に現金が配られ、医療費や教育費は原則として無料だ。

 政界もほぼ親中派で占められる。政府トップの行政長官は、経済界の重鎮や政治家らで構成される選挙委員400人だけの投票で決まる。委員の多くは親中派だ。立法会(定数33)も、業界団体枠(12人)と行政長官による指名枠(7人)は全員、親中派。民主派議員は市民が「1人1票」を持つ直接選挙枠(14人)のうちの4人しかおらず、香港に比べてその力は弱い。

 01年から立法会議員を務める民主派のベテラン、区錦新氏(62)に歴史的な背景などを問うた。

 ――マカオと香港は同じ1国2制度だが、マカオは「親中」の傾向が強い地域と言われる。

 区氏 香港とは歴史的な経緯がまるで違う。マカオでは1966年、親中派市民と警察の小競り合いが大規模な暴動に発展した。中国政府はマカオとの境界付近に軍を集結させるなど威嚇して介入。(ポルトガル人総督がトップを務める)マカオ政庁が全面降伏した。その後は、中国共産党系の団体が経済、商工業、労組など各界を掌握するようになった。

 ――しかし、中国政府が北京で学生らを武力弾圧した天安門事件(89年6月)の時にはマカオでも学生を支援するデモが起きた。

 区氏 香港では100万人以上が参加したと言われるデモが起きたが、マカオでも10万人規模のデモが起き、私も参加した一人だ。多くの親中派団体もデモに加わっていた。

 ――マカオの人口は当時、30万人強だから、全人口の3割ほどが参加した計算になる。

 区氏 ええ。多くの市民が学生らに同情し、マカオ史上例を見ない大規模なデモだった。しかし中国政府が学生を弾圧する方針を明確にすると、親中派団体はいっせいに中国政府支持に転じた。英国統治下で80年代から民主化要求があった香港では、天安門事件が民主派の勢力拡大につながったが、親中派団体が社会に深く根を下ろしたマカオではそうならなかった。私たち民主派は毎年、事件が起きた6月4日にマカオで集会を開いているが、参加者はいつも数百人程度だ。

 ――返還後、さらに親中の傾向が強まったのか。

 区氏 住民は、中国政府や人民解放軍に頼る傾向がある。17年8月の台風被害の際、マカオ政府は駐マカオ人民解放軍に出動を要請し、解放軍はがれきの撤去などに当たった。マカオで解放軍が出動するのは返還後、初めてだった。私たち民主派が「自力で解決すべきだ」と政府を批判したところ、市民から「なぜ解放軍が市民を支援してはいけない…

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福岡静哉

台北特派員

1978年和歌山県生まれ。2001年入社。久留米支局、鹿児島支局、政治部などを経て2017年4月、台北に赴任した。香港、マカオのニュースもカバーする。