Social Good Opinion

「食」から考える社会とメディアの今

松丸里歩・「SHOCK TUCK」編集長
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「SHOCK TUCK」編集長の松丸里歩さん=佐々木順一撮影
「SHOCK TUCK」編集長の松丸里歩さん=佐々木順一撮影

身近だからこそ議論が少ない「食」の問題

 あなたは、どんな基準で食べるものを選んでいますか?

 農林水産省が発表した2018年度の食料自給率(カロリーベース)は37%と、過去最低を記録しました。エネルギーとなって私たちの身体を支え、生活の質を高めてくれる食の生産者と消費者の距離は離れており、自分が食べるものがどこから来ているのか、その生産と消費においてどのような社会・環境問題が生まれているのかについて日常的に議論される機会は多くありません。

 【毎日新聞 2019年8月7日】<食料自給率 37%、過去最低 低温、日照不足が影響 93年度に並ぶ 18年度>

 例えば、先月6日に有志の与野党議員によって「ベジタリアン/ヴィーガン関連制度推進のための議員連盟」が発足しましたが、主な動機は「東京五輪・パラリンピックに向け、肉や魚を食べない『ベジタリアン』や、さらに卵や乳製品なども食べない『ビーガン』と呼ばれる菜食主義の訪日外国人が安心して観光できるよう環境整備を進めるため」とされています。

 【毎日新聞 2019年11月6日】<ベジタリアン議連発足 東京五輪・パラに向け公的支援のあり方など検討>

 しかし、こちらの記事でも触れられているように、諸外国におけるベジタリアンやビーガンの増加理由のひとつには過度な畜産による環境負荷への懸念があります。東京五輪・パラリンピックで増加する訪日外国人への対応であることも確かですが、そもそものベジタリアンやビーガンという食生活の選択要因となっている気候変動問題や倫理問題に関する議論が十分になされていないように感じます。

未来を形作る日々の選択は、他人任せ

 とはいえ、私はなにも「自分の食べるものについて考えよう!」ということだけを訴えたいのではありません。生産の背景や社会・環境への影響が見えづらいために議論や対処が欠如しているのは、生活に密接に関わる食以外のものにも当てはまるのではないでしょうか。

 例えば、身に着ける衣服、使用するエネルギー、生活に影響を与える政治など。私たちの生活は選択の連続によって成り立っていますが、重要な選択の多くは他人任せになっていませんか。目の前に提示される手軽な選択肢をおよそ無意識に選んでいるうちに、意図せずとも社会や地球環境、そして結果的には自分の日常生活や未来にも悪影響をもたらしているかもしれません。

 そんな現状に気付き、日々の行動について改めて考えるきっかけとして、身近な“食”が役に立つのではないかと思っています。食に直接的に関わる社会問題を独立した問題として捉えるのではなく、食を介して根本的な問題に目を向け、有意義な議論をする人が増えてほしい――。そこで私が始めたのが、食を通して社会・環境問題をカジュアルに捉える自主メディア「SHOCK TUCK」でした。

社会問題を日常につなげる「媒介物」としてのメディア

 本連載「Social Good Opinion」の今月のライター4人のように、いわゆるオルタナティブメディアを立ち上げる人は年々増えているように感じます。では、情報過多の時代にあえて情報を増やす意味や、そもそものメディアの役割とは何なのでしょうか。

 メディア(media)という英単語はもともとミディアム(medium)の複数形で、ミディアムには「媒介物」という意味があります。社会で起こっている出来事と個人の日常生活をつなげるための「媒介物」としての役割がメディアにはあるのではないかと思います。

 マスメディアは世間への影響力が大きく、情報を周知させるのに有効です。しかし、前回の記事でエシカルゴみずきさんが指摘していたように、「簡単に消費されることを前提」としたセンセーショナルなニュースが次々と流れることによって埋もれてしまう情報や、短期間で忘れ去られてしまう出来事もあります。情報やメッセージを媒介するのではなく、メディアそのものがメッセージになって私たちの生活を翻弄(ほんろう)しているように感じることすらあります。このような現状のなか、マスメディアからこぼれ落ちた情報を拾い上げ、草の根的に人々に伝えられるのがオルタナティブメディアだと私は考えています。

 「SHOCK TUCK」では主に、食に関する取り組みを取り上げ、その取り組みが解決しようとしている社会・環境問題を紹介しています。真正面から深刻な社会問題や環境問題について語るのではなく、身近な食を入り口とすることで、社会や地球環境といった大きな規模における問題について気軽に考えてもらうことがねらいです。そういった意味では、食そのものも一種の「メディア(媒介物)」かもしれませんね。

次世代のメディアのあり方とは

 以前はただの情報の受け手であった私たちも、送り手になることができる今の時代。さまざまな形式のメディアが混在しながらも、対立するのではなく特徴を生かし合い、世代を超えた健全な議論のタネを生み出していきたいと思っています。冒頭で触れたような大規模な社会・環境問題についても、食やメディアを通して日常生活とのつながりを再発見し、より良い社会のために声を上げて行動する人が増えていくことを期待しています。

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松丸里歩

「SHOCK TUCK」編集長

1998年生まれ。食を通して社会・環境問題をカジュアルに捉える自主メディア「SHOCK TUCK」(https://shocktuck.wixsite.com/2018/ )編集長。2018年に官民協働留学奨学金制度「トビタテ!留学JAPAN」に採用され、都市部の人々の食や社会問題に対する意識を調査するためにロンドンへ留学。留学先や日本における食を介したコミュニティー構築の事例や、循環型社会に向けた取り組みを発信している。国際基督教大学教養学部社会学専攻4年。