麗しの島から

台湾総統選で繰り広げられる道教寺院「廟」を巡る攻防

福岡静哉・台北特派員
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峨崙廟の本殿に安置された神々の像。毎日、多くの住民が参拝に訪れ、本殿には線香の煙がたなびいている=台湾北部・苗栗県卓蘭地区で2020年1月1日、福岡静哉撮影
峨崙廟の本殿に安置された神々の像。毎日、多くの住民が参拝に訪れ、本殿には線香の煙がたなびいている=台湾北部・苗栗県卓蘭地区で2020年1月1日、福岡静哉撮影

 1月11日に投開票される総統選で、再選を目指す民進党の蔡英文総統(63)と野党・国民党の韓国瑜・高雄市長(62)は「廟(びょう)」と呼ばれる道教の寺院への参拝を重視する。道教の民間信仰が深く根付いた台湾では、廟が住民に影響力を持つためだ。水面下では廟の支持を取り付けようと激しい攻防も繰り広げられている。

蔡総統は半年で100以上の廟を参拝

 台湾北部・苗栗県の卓蘭地区は鉄道駅から約15キロ離れた山間部にある。集落の中心にある峨崙(がろん)廟は連日、無病息災や家内安全を願う住民であふれている。

 元日の午後、峨崙廟に蔡氏が現れた。「蔡英文、当選!」「民進党、勝つぞ!」。蔡氏が参拝すると事前に聞いていた住民らが廟の前の広場に大勢集まり、蔡氏を出迎えた。

 台湾の人々は信仰心があつく、各地に無数の廟がある。祭神は「三国志」でおなじみの関羽や、航海の女神「媽祖(まそ)」など多彩だ。こうした民間宗教は、大半の台湾人の祖先が暮らした中国南部に由来する。

 峨崙廟は1823年の創建。祭神は「三山国王」と呼ばれる3人の神様だ。蔡氏は廟の管理委員会幹部らと共に、祭神の像が飾られた廟の本殿の前に並び、線香を手にお辞儀を繰り返した。その表情は真剣そのものだ。

 参拝が終わると、蔡氏は本殿の前で住民らに「新年快楽(あけましておめでとうございます)!」と新年のあいさつをした。続いて演説が始まった。「農民の皆さんの生活を向上させます」「高齢者を支援する予算を増やします」。蔡氏は次々と公約を述べ始めた。「誰に投票しますか?」。蔡氏の呼び掛けに、住民らは大きな声で「蔡総統!」と応じた。

 演説を終えると、蔡氏は次の廟に向かった。峨崙廟の近くに住む鄧徳安さん(88)は「蔡総統を間近で見られてうれしい」と笑顔を見せた。

 候補者は廟を参拝することで住民とふれあい、その地域を重視していると印象づけることができる。蔡氏は総統選を見据え、2019年3月ごろから廟に参拝する機会を増やしてきた。民進党の総統候補に決まった6月以降、参拝した廟は100を超える。一方、国民党の韓氏も早い段階から廟への参拝を続けている。19年9月21日にはこの日だけで21カ所の廟を一気に回り、メディアの話題をさらった。

廟のトップも選挙で決定

 峨崙廟の管理委員会トップの主任委員を務める戴永松さん(60)に話を聞いた。「峨崙廟 主委 戴永松」と記したジ…

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福岡静哉

台北特派員

1978年和歌山県生まれ。2001年入社。久留米支局、鹿児島支局、政治部などを経て2017年4月、台北に赴任した。香港、マカオのニュースもカバーする。