非常中国

台湾の民意は中国に何をもたらすのか?

浦松丈二・統合デジタル取材センターデスク
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香港のデモ現場で命を落とした香港科技大学2年の周梓楽さんを追悼する祭壇が台北二二八紀念館近くに設けられていた=1月4日、浦松丈二撮影
香港のデモ現場で命を落とした香港科技大学2年の周梓楽さんを追悼する祭壇が台北二二八紀念館近くに設けられていた=1月4日、浦松丈二撮影

 台湾では1996年から総統の直接選挙を実施しており、11日投開票の総統選挙で7回目を迎えた。今回は、香港のデモの影響が注目された。駐在している北京から総統選取材のため台湾に入り、台湾社会で急速に進む中国離れに驚かされた。

 中国の習近平指導部は1国2制度による台湾統一を目指している。だが、49年に国共内戦に敗れた国民党が台湾に逃れて分断統治が始まって71年。さらに、96年に初めて総統を直接投票で選ぶようになってから24年の月日が流れた意味は大きい。

 台湾人が示した民意を習近平指導部が客観的に受け止めるなら、中国の対台湾政策が圧力一辺倒ではなくなる可能性もゼロではない。問題は、客観的に受け止められるかだ。

台湾の「中国離れ」もたらした中国の制裁

 台湾人の中国離れは中国自らが招いた側面がある。中国当局は2019年8月から台湾への個人旅行を暫定的に停止したままだ。「現在の(中台)両岸関係を考慮して」と中国側は理由を説明しており、独立志向の強い与党・民進党の蔡英文(さい・えいぶん)政権を締め上げる経済制裁だとみられている。

 当初、台湾メディアは「下半期に観光客70万人が減少か」「外国人観光客1200万人誘致目標が危ぶまれる」などと懸念を伝えた。予想通り中国大陸からの観光客は大幅に減ったものの、日本人と韓国人の観光客は大きく伸びた。制裁が始まった8月から11月までの日本人旅行客は前年同期比11%増、韓国人旅行客も33%増だった。

 レトロで色鮮やかな街並みが「千と千尋の神隠し」の世界を思い起こさせると人気の観光地、九份(きゅうふん)を3日午後に訪れたが、狭い道ではすれ違えなくなるほどの混雑だった。

 カラスミの大箱を山積みにした土産物店店主は「大陸の観光客は急に減ったけれど、日本人も韓国人も大勢来てくれる。欧米や知らない国の人も増えているから大丈夫」と笑う。選挙への影響を聞くと「全くないよ」と両手をふった。

 調べてみると、台湾経済部(経済産業省)などは昨年9月から中国人旅行客減少の穴埋めのため観光業界に補助金を出していた。中国が台湾との人的交流を制限した結果、台湾が日本や韓国と人的交流を拡大させてしまったのだ。逆効果である。

 台湾で民進党政権が発足すると、中国は進出してきた台湾企業に有形無形の圧力をかけることが多い。今回は圧力だけでなく、総統選2カ月前の19年11月4日に台湾向けに投資許可拡大など26項目の優遇措置を発表し、蔡総統が「選挙への干渉」と反発している。

 蔡氏が再選したら優遇措置がなくなると台湾の有権者に心配させることで、中国との対話に前向きな国民党の支持者を台湾に増やすアメとムチの作戦だろう。かつて中国との内戦を戦った国民党だが、大陸出身者やその子孫が多く、中国人という意識を持つ支持者も多い。中国共産党としては政治対話が可能な相手だ。

 だが、米中貿易戦争によって中国の対米輸出入製品に高関税がかけられるようになっている。むしろ中国は台湾を含む外資の撤退圧力に直面する。

 米中貿易戦争や香港のデモなど情勢の変化を受け、国民党の専売特許だった景気回復のための中国カードは色あせた。選挙戦では民進党の蔡氏だけでなく、国民党の総統候補、韓国瑜(かん・こくゆ)氏までもが中国と交流を深めるメリットを強調できなくなっていた。

台湾や香港の民意を読めない習近平指導部

 台…

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浦松丈二

統合デジタル取材センターデスク

2020年5月から統合デジタル取材センター。北京、バンコク、台北などに12年余。アジア、ライフスタイル、ニューメディアを勉強中です。連載企画「チャイナ・センセーション」で第21回新聞労連ジャーナリズム大賞。twitter:@uramatsujoji