ウェストエンドから

「強硬」から「穏健」へ 政治の潮目が変わった北アイルランド

服部正法・欧州総局長
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ベルファストのシャンキルロード。ユニオニストの多い地域ではナショナリスト武装組織のテロを非難し、プロテスタントの犠牲者を弔う内容の掲示が町中に目立つ=2019年11月、服部正法撮影
ベルファストのシャンキルロード。ユニオニストの多い地域ではナショナリスト武装組織のテロを非難し、プロテスタントの犠牲者を弔う内容の掲示が町中に目立つ=2019年11月、服部正法撮影

 昨年12月12日の英下院総選挙で与党・保守党が圧勝したことを受け、英下院は1月9日、離脱関連法案を可決した。上院の可決も確実で、31日のブレグジット(英国の欧州連合=EU=離脱)実現が目前だ。

 前回の当コラムで書いたように、この選挙は、連合王国を形成する四つの「国」のうち、小選挙区の8割強が集中するイングランドで、保守党が労働党の地盤を切り崩したことで大勢が決した。

 では他の「国」ではどうだったか。その地域特有の事情が結果に色濃く反映された結果となった。選挙を通じて独立機運再燃の可能性も指摘されるスコットランドについては、またの機会に譲るとして、今回は、ブレグジットの影響を最も強く受ける地域と指摘されてきた北アイルランドの選挙結果から、何が見えるのか考えてみたい。

EU残留支持派の多い「国」での総選挙

 英国の全人口約6600万人のうち約5600万人が住み、単純小選挙区制で決める下院定数650のうち533を占めるイングランドと比べると、人口約190万人、下院選挙区数18の北アイルランドは実に小さい。しかし、ユニオニスト(英国の統治継続を求めるプロテスタント系)とナショナリスト(アイルランドへの併合を求めるカトリック系)に二分される北アイルランドの安定は、英国の国政にとって常に大きな課題であり続けている。

 ユニオニスト、ナショナリスト双方の過激武装勢力などによるテロと暴力の応酬が30年続き、約3500人の犠牲者を出した北アイルランド紛争は1998年の和平合意によって収束に向かった。

 ブレグジットについて言うと、2016年の住民投票でイングランドではEU離脱支持が53%と多数派を占めた一方、北アイルランドでは残留支持が56%を占めた。11年の国勢調査では北アイルランド人口の48%がプロテスタントで45%がカトリック。離脱を問う住民投票では、EU加盟国アイルランドとの絆を重視するカトリックに加え、プロテスタントの穏健派も残留に一定程度、票を投じたと見られている。ブレグジットでは、和平合意で国境を越えた自由往来が保障された北アイルランド-アイルランド間の国境の扱いをどうするかが、最後の最後まで懸案となった。

 そういった状況下で行われた今回の総選挙。北アイルランドでの結果は、ユニオニスト右派「民主統一党」(DUP)8議席、ナショナリスト左派「シン・フェイン党」7議席、ナショナリスト中道左派「社会民主労働党」(SDLP)2議席、ユニオニストとナショナリスト双方に対し中立の態度を取る「北アイルランド同盟党」(アライアンス)1議席という結果となった。改選前はDUP10、シン・フェイン党7、独立系1だった。

 この結果について、選挙後多くの英メディアが注目したのは「ナショナリスト側が初めてユニオニスト側の議席数を合計で上回った」という点だった。シン・フェイン党とSDLPの議席数を…

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服部正法

欧州総局長

1970年生まれ。99年、毎日新聞入社。奈良支局、大阪社会部、大津支局などを経て、2012年4月~16年3月、ヨハネスブルク支局長、アフリカ特派員として49カ国を担当する。19年4月から現職。著書に「ジハード大陸:テロ最前線のアフリカを行く」(白水社)。