拝啓 ベルリンより

ベビーカーでの外出ってこんなに気楽だったっけ?

念佛明奈・ベルリン特派員
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2人乗りのベビーカーで外出する人もよく見かける=ベルリンで2019年10月9日、念佛明奈撮影
2人乗りのベビーカーで外出する人もよく見かける=ベルリンで2019年10月9日、念佛明奈撮影

 2019年4月、私は10カ月になった息子とともに特派員としてベルリンに赴任した。「子連れで外国赴任は大変でしょう」と声をかけてもらうのだが、実のところ、ベルリンでの子育てのほうが楽なのではないか、という気がしている。例えば、ベビーカーだ。東京では一番苦手だったベビーカーでの外出が、信じられないほど楽なのだ。

 東京では、ホームでベビーカーから赤ん坊を抱き上げ、片手でベビーカーをたたむ。間に合わなかったり乗客に遠慮したりで見送った電車も数知れず。車内では周囲の邪魔にならないかとドキドキしながら「すみません、すみません」と常に縮こまっていた。

 ベルリンでは勝手が違う。そもそもベビーカーをたたむ人はいないし、電車に乗るとさっと場所を空けてくれる。階段しかない場所では、必ず誰かが来て手を貸してくれる。

 赴任してすぐ、地下鉄が急に混雑し始め、ベビーカーで降りられなくなった時のことだ。「すみません、通してください」と言うと、入れ墨だらけの体格の良い若い男性が突然「ベビーカーだ! ここで降りるぞ」と呼びかけてくれた。呼応して別の女性が「子どもだよ、開けてー」。電車に乗ってきた人もベビーカーに手をかけ「ほら、こっちだ」と先導してくれた。無事に降りて、思わず目頭が熱くなった。居合わせた全員が「味方」であるように感じられたのだ。

「東京は人が多いから」だけだろうか

 こうした違いはどこから来るのか。まず「人口密度」の差が挙げられる。1平方キロあたりの人口密度は、ベルリン約4000人に対し、東京23区約1万5000人。同じスペースにざっと3~4倍の人がいる計算なので、物理的な差は大きい。

 では、混雑した地下鉄であっても発揮されたあの連帯感は、どこから来るのだろう。

 「ドイツでは女性だけではなく、多くの男性もベビーカーを押すし、同性カップルも子育てをしている。若い人たちの間に、人生を豊かにするために子育てを経験したいという意識が広がってきている」。こう話すのは、欧州の日本文学・日本学研究の第一人者でもあるベルリン自由大のイルメラ・日地谷=キルシュネライト教授(文学・文化学)だ。

 ドイツの出生率は1995年の1・25から1・57(2018年)へと増加。子育ては限られた一部の人だけの営みではない、という認識が社会に浸透しているのかもしれない。

気軽に考えられる「私のすべきこと」

 日本には「手助けしたいが、知らない人には声をかけにくい」という空気もある。

 私自身も、少し離れた場所にいる人に席を譲ろうとして「『もしもし』と呼びかけて、気づかれなかったら恥ずかしいな」とか、相手が高齢者だと「年寄り扱いして不愉快になるかしら」とためらったものだ。勇気を出して譲った後は、何となく気恥ずかしく、その場を離れる人も多いのではないか。

 ドイツ人はその点、知らない人と話すことに照れも気負いもないようだ。赤ん坊…

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念佛明奈

ベルリン特派員

1980年生まれ。振り出しは盛岡支局。政治部、大阪社会部、外信部を経て19年4月からベルリン支局。夫と長男の3人暮らし。