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元テロ捜査官に学ぶ実践講習を受けてみた<ベリングキャットの衝撃(中)>

八田浩輔・ブリュッセル特派員
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ベリングキャットの講座。実践方式でオープンソース調査の基本的な手法をたたき込んだ=アムステルダムで2019年8月20日、八田浩輔撮影
ベリングキャットの講座。実践方式でオープンソース調査の基本的な手法をたたき込んだ=アムステルダムで2019年8月20日、八田浩輔撮影

 航空機事故などをめぐる調査報道で成果を上げる独立系の調査グループ「ベリングキャット」は、インターネット上の公開情報を分析するオープンソース調査の基本的な手法を教える講座を欧米各地で開催している。アムステルダムで開かれた5日間の講習に記者が参加した。

 「これはIS(過激派組織『イスラム国』)の支持者が2016年に投稿した写真だ。撮影された場所を特定してほしい。分かっているのは、パリのどこか。それだけだ」

 目の前のスクリーンに映し出された1枚の写真。その大部分をアラビア語らしき文字が書き殴られたメモが覆っている。ISへの賛意を意味するものらしいが判読できず、撮影場所を探すにはメモの背後にわずかに写る街の風景を手がかりにするしかない。だが似たような通りはパリには無数にあるだろう。

 いきなり手詰まりか。そう思いながら写真を見つめていると、メモの後方に写る赤と青の看板のようなものに目がいった。企業ロゴのようにも見えるが、ピントが合っていない上に半分以上はメモが書かれた紙に隠れている。その時、指導役のニコ・デケンスさんが私の方を向いてつぶやいた。「この中にいる誰かは分かるかもしれないな」。ある日本企業のロゴが浮かんだ。

 パリ市内の「スズキ自動車」販売店を検索し、表示された住所を順番にグーグルマップのストリートビューでたどった。それから2分もたたないうちに写真と同じ通りに行き当たり、撮影した場所とみられるアパートと部屋の位置まで推定できた。

 写真や動画を分析して撮影された位置情報を特定することを、ベリングキャットでは「ジオロケーション」と呼ぶ。オープンソース調査で最も基本的な作業の一つだ。ささいな情報から撮影時期を絞り込むこともできる。ベリングキャットによるマレーシア航空機(MH17)の撃墜事件の調査では、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に投稿されたロシアの軍事車両の動画に映るガソリンスタンドの掲示板に表示されたガソリン価格から撮影時期を推定した。撮影日が分かっている写真では、構造物の高さとその影が伸びる方角と長さを計算して時刻を割り出すこともできる。

 ベリングキャットは、常勤メンバーを約20人に拡大して活動の幅を広げる。オープンソース調査の講座は18年から欧州と米国で不定期に開催している。参加料は2400ユーロ(約28万8000円)と高額にもかかわらず、ウェブ…

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八田浩輔

ブリュッセル特派員

2004年入社。京都支局、科学環境部、外信部などを経て16年春から現職。欧州連合(EU)を中心に欧州の政治や安全保障を担当している。エネルギー問題、生命科学と社会の関係も取材テーマで、これまでに科学ジャーナリスト賞、日本医学ジャーナリスト協会賞を受賞(ともに13年)。共著に「偽りの薬」(毎日新聞社)。