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オールドメディアに押し寄せるオープンソース調査の波<ベリングキャットの衝撃(下)>

八田浩輔・外信部記者
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ベリングキャットを創設したエリオット・ヒギンスさん=オランダ・ユトレヒトで2019年7月16日、八田浩輔撮影
ベリングキャットを創設したエリオット・ヒギンスさん=オランダ・ユトレヒトで2019年7月16日、八田浩輔撮影

 インテリジェンスの現場がインターネットに移行しつつある中、調査報道のあり方も変化が迫られている。デジタル時代の新しい報道を模索するテレビや新聞などのオールドメディアには、オープンソース調査の専門家を採用したり、外部との連携を深めたりする動きがある。

イランによるウクライナ機撃墜を割り出す

 イランの首都テヘランで、2020年1月8日早朝にウクライナの民間航空機が撃ち落とされた事件では、独立系の調査グループ「ベリングキャット」と米紙ニューヨーク・タイムズが連携したオープンソース調査がいち早く経緯の一端を明らかにした。

 墜落の一報を受けて、ベリングキャットには多くの協力者からイランで投稿された現場写真などのデータが送られてきたという。米国を拠点とするベリングキャットのメンバーが墜落現場とみられる1枚の写真の撮影地点を調べてほしいとツイッターで呼びかけると、数時間後には匿名のユーザーがテヘラン郊外の正確な位置情報を特定した。

 翌日、米メディアは情報筋の話として「イランがミサイルで誤って撃墜した可能性がある」という見方を一斉に伝え始めた。イラン当局は機体のトラブルが原因との主張を崩さない中で、1本の動画がツイッターなどで出回り始める。

 ウクライナ機が墜落した当日、現場に居合わせた人が撮影したとされる20秒弱の動画は、真っ暗な空を高速で横切る飛翔(ひしょう)体が空中で何かに衝突して閃光(せんこう)が走った後、周囲に大きな爆発音が響く様子を捉えていた。

 ミサイルが飛行中のウクライナ機に着弾した瞬間なのか。動画の真偽を検証するため解像度の高いオリジナル動画を独自に入手したニューヨーク・タイムズは、まず動画に映る建物などから撮影場所を割り出した。次に閃光と衝撃音が響く時間差の計算から空中で飛翔体が衝突した地点を推定したところ、民間機の位置情報が追跡できるサイトに表示されたウクライナ機の飛行ルートと一致した。検証作業ではベリングキャットも連携した。

 ニューヨーク・タイムズは9日、この動画をウェブサイトで公開し、ウクライナ機にイランのミサイルが命中した瞬間を捉えたものだと説明した。事故だと主張していたイラン政府は、11日になってイラン革命防衛隊がミサイルで誤射したものと認めて謝罪した。

 ニューヨーク・タイムズで動画の検証にあたった「ビジュアル調査チーム」は、ソーシャルメディアの分析企…

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八田浩輔

外信部記者

科学環境部、ブリュッセル特派員を経て20年8月から外信部。欧州時事や気候変動をめぐる政治・社会の動きをウォッチしています。科学ジャーナリスト賞、日本医学ジャーナリスト協会賞を受賞(ともに13年)。共著に「偽りの薬」(新潮文庫)。