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訪韓200回超ブロガーにその流儀を学んだ

坂口裕彦・ソウル支局長
益山刑務所セット場で、囚人服を着て、自分たちの姿を撮影する若い女性=2020年1月18日、坂口裕彦撮影
益山刑務所セット場で、囚人服を着て、自分たちの姿を撮影する若い女性=2020年1月18日、坂口裕彦撮影

 2階建て刑務所の雑居房は、広さ8畳ほど。踏みしめるたび、木の床はきしむ。壁にかかった温度計によるとマイナス1度で、寒さが身に染みる。金網で仕切られた面会室や、鉄条網付きの高い塀、監視塔。ただし、受刑者の姿はどこを探してもいない。

 それどころか、刑務所に入るや、真っ先に目に飛び込んでくるのは、壁に張られた数々の映画のパンフレット。青い囚人服に身を包んだ若い女性2人組は「この施設、とても楽しいですよ」と、目を輝かせて、デジタルカメラで自分たちを撮影している。しばらくすると、団体客のおじさんやおばさんまで入ってきた。

 本来、重々しい雰囲気のはずの刑務所は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)映えにもってこい。こういうイメージのギャップが、好奇心をくすぐるのだ。

 韓国・全羅北道益山(イクサン)市にある「益山刑務所セット場」は、廃校になった小学校の分校を2005年に改築して作られた。韓国で唯一となる刑務所の撮影用セットだ。これまで200本以上の映画が撮られた。普段は無料で公開され、「囚人体験」もできる。

 首都ソウルから高速鉄道KTXで約1時間20分、さらに路線バスに揺られて50分。朝鮮半島の古代王国のひとつで、日本にも大きな影響を与えた百済の遺跡も多く残る地方へ足を延ばしたのは、ここで撮影された13年公開の韓国映画に感動したからだ。

 「7番房の奇跡」。知的年齢が6歳の父ヨングと2人で暮らす、しっかり者の6歳の娘イェスンだが、ヨングが殺人容疑で逮捕、収監されてしまう――。韓国人の友人は「きっと涙が止まりませんから」。そんなわけはと、いざオンラインで鑑賞すると、本当にその通りになってしまった。

 せっかく韓国にいるのだから、名作が生まれた現場を見に行こう。思い立ったが吉日。そんな気分になったのは、出かける約1週間前に、200回超の訪韓歴を誇る「ブロガー ビョン」こと、小暮真琴(こぐれ・まこと)さん(58)=川崎市在住=に「韓国の魅力は、地方にあり」と、大いに薫陶を受けたからだ。

18年にはついに「全国行脚」を達成

 スマートフォンのカメラで、料理の写真をパチリ。メニューや値段、味付け。わからないことがあれば、すかさず店員に尋ねる。「ネアカ」な性格で、ぐいぐいと情報を引き出す取材力は驚くべきものだった。

 首都ソウルを代表する繁華街・明洞(ミョンドン)から、ぶらりと歩ける…

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ソウル支局長

1998年入社。山口、阪神支局に勤務し、2005年に政治部。外信部、ウィーン支局、政治部と外信部のデスクなどを経て、21年4月から現職。19年10月から日韓文化交流基金のフェローシップで、韓国に5カ月間滞在した。著書に「ルポ難民追跡 バルカンルートを行く」(岩波新書)。