クトゥーゾフの窓から

北方領土 安倍政権はロシアの「誘い水」に乗るのか

大前仁・外信部副部長
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国家安全保障局の北村滋局長(左)と会談したプーチン露大統領=モスクワ郊外のロシア大統領公邸で2020年1月16日、ロシア大統領府ホームページから
国家安全保障局の北村滋局長(左)と会談したプーチン露大統領=モスクワ郊外のロシア大統領公邸で2020年1月16日、ロシア大統領府ホームページから

 日露両国が1年前に始めた平和条約交渉では、ロシアが▽領土の引き渡しを抜きにした平和条約の締結▽領土の引き渡し交渉――という2段階の解決法を求めてきたことが分かった。

 安倍晋三首相の元外交ブレーンも対露交渉が袋小路にはまったと指摘しているが、安倍政権にはロシアの要求を検討している節もうかがえる。

 自民党総裁としての任期が約1年半後に迫る中、安倍首相が対露政策で「最後のかけ」に出る可能性はあるのだろうか。

 ロシア政界は新年早々に大きく動いたが、そのさなかに日露はハイレベルの接触を実現させた。プーチン露大統領は1月15日の年次報告演説で政治機関の変革を提案し、それに連動して無名のミシュスチン氏を首相に指名した。一方でプーチン氏は翌日、国家安全保障局(NSS)の北村滋局長と会談し「日露関係が前向きに発展しつつある」と表明した。両国は2月に外相や次官級の会談も予定しており、政治対話を進めている。

 ところが1月下旬、安倍首相の元側近が平和条約交渉の実態を暴露する事態が起きた。前NSS局長の谷内正太郎氏は24日、BSフジの番組に出演。ロシアの要求について「まず領土について何も書いていない、無条件の平和条約を結び、そのうえで領土問題を協議するという2段階論だ」と明かした。

 さらに、日本からの外国部隊の撤収▽第二次大戦の結果として、北方領土がロシア領になったと認めること――などを求めていると指摘。平和条約締結の可能性について「なかなか展望は開けない。何らかの前進を見るために他にやることがあるのかといえば、ない」と断言した。

 谷内氏は第1次安倍政権で外務次官、第2次政権でもNSS発足時(2013年)から局長を務め、首相側近の一人だった。しかし任期中の平和条約締結を目指す安倍首相と、対露関係が前のめりになることを嫌う谷内氏の間では、常に温度差があると指摘されてきた。谷内氏は19年秋に75歳の年齢(当時)を理由にして退任したが、実は安倍首相が対露外交の違いから遠ざけたのではないかとの観測も上がった。

 後任の北村氏は警察庁出身で外交経験は浅いが、首相の対露外交を忠実に実行する役割を求められている模様だ。今回の発言は、首相と谷内氏の対露外交のスタンスの違いが表面化したともいえるだろう。

 谷内氏の発言に先立ち、複数の日露外交筋は私に対し、プーチン政権が2段階の解決法を求めてきたことを明かしていた。日露は18年11月の首脳会談で、ソ連(当時)と日本が1956年に結んだ「日ソ共同宣言」を基礎として、平和条約交渉を加速させることで一致した。宣言には「平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を引き渡す」と記されている点を踏まえ、安倍政権は実質的な2島返還で決着しようと勝負に出た。

 しかしロシアは日本の提案をのまなかった。ロシア外交筋の一人は次のように語る。「日本とは19年5月まで平和条約に特化して協議…

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大前仁

外信部副部長

1969年生まれ。2008~13年、18~20年にモスクワ支局勤務。現在は旧ソ連諸国や米国の情勢、日露関係を担当。