非常中国

新型肺炎、初動の遅れはなぜ起きた? 武漢市長の発言を読み解く

浦松丈二・中国総局長
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1月26日の記者会見で質問に答える周先旺・武漢市長=武漢市公式ホームページから
1月26日の記者会見で質問に答える周先旺・武漢市長=武漢市公式ホームページから

 あと1週間早く武漢市が対策に乗り出していれば――。これほど早く中国全土に、そして世界各地に新型コロナウイルスが拡散する事態は避けられたのではないか。武漢から遠く離れた北京に暮らしていても複雑な感情がこみ上げてくる。

 武漢市の対策が後手に回った結果、ウイルスは1月中旬から始まった春節(旧正月)の帰省ラッシュに乗って拡散してしまった。初動が遅れたのはなぜか? 国営メディアのインタビューに応じた武漢市長の発言から順に検証してみたい。

 武漢市長の周先旺(しゅう・せんおう)氏(57)は1月27日に中国中央テレビの単独取材に「我々の情報発表の方法には各方面が満足していない」と前置きして次のように釈明した。

 「発表がタイムリーでなかったことについては、これが伝染病であり、伝染病には『伝染病防治法』があり、法に基づき発表しなければならないことを理解してほしい。私は、地方政府として情報を得た後、(中央政府から)権限を授けられて初めて、発表できる。この点が当時、理解されなかった」

 原因不明の肺炎が流行しているのに、法律を盾に責任逃れをしているようにも聞こえる。

 市長は続けて「1月20日に国務院(中央政府)の常務会議が開かれて、この肺炎をBクラスの伝染病と確定した上でAクラスの伝染病(コレラとペスト)の対応を適用し、発生地で責任を負うことが求められた。それからは我々(地元)として主体的に取り組めるようになった」と説明している。

 今度は中央政府の権威をかさに着て、初動段階では地元に対応権限がなかったかのような言いぶりだ。官僚主義的な発言は中国国内でも反発を招いている。

 確かに伝染病防治法4条には「Bクラスの伝染病の中でも、(ヒトからヒトへ)伝染する新型肺炎や炭疽(たんそ)症、鳥インフルエンザにはAクラスの予防、抑制措置を採用する」と例外規定が定められていた。

 武漢市で原因不明の肺炎患者が発症したのが昨年12月8日。中国政府は同31日に世界保健機関(WHO)に報告し、1月7日には遺伝子配列を特定して新型コロナウイルスによるものと発表している。

 武漢市が感染状況を素早く正確に中央政府に伝えていれば、早い段階から地元で主体的に取り組めていたのではないか。問題は、武漢市が中央政府にどのような報告をしていたかだろう。

 武漢市衛生健康委員会が原因不明の肺炎の流行を初めて公式ウェブサイト上で発表したのはWHOへの報告と同じ昨年12月31日だった。内容は次のようなものだ。

 <最近、一部の医療機関から華南海鮮城(海鮮市場)と関係した肺炎患者の報告が相次ぎ、調査したところ、現在までに27人の病例(うち7人は重症)が見つかった。現在までに明確なヒトからヒトへの感染や医療従事者の感染は見つかっていない>

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浦松丈二

中国総局長

1991年入社。佐世保支局、福岡総局、外信部を経て、98~99年台湾師範大学留学。中国総局(北京)、アジア総局(バンコク)で計12年勤務。現在は中国語圏の若者カルチャー、文化交流などを取材している。