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「汚職一掃」掲げた極右大統領は身内に甘かった

山本太一・さいたま支局
汚職撲滅を掲げながら周囲の汚職疑惑に甘い姿勢を取り、批判が高まるブラジルのボルソナロ大統領=ブラジリアで2019年4月、AP
汚職撲滅を掲げながら周囲の汚職疑惑に甘い姿勢を取り、批判が高まるブラジルのボルソナロ大統領=ブラジリアで2019年4月、AP

 汚職一掃を掲げる南米ブラジルの極右ボルソナロ大統領が2019年1月に就任し、1年が過ぎた。この間、ボルソナロ氏は汚職政治家に厳しい法改正を進めようとする一方、周辺人物の汚職疑惑には甘い姿勢を見せた。18年10月の大統領選で汚職撲滅への強硬姿勢が支持を集めただけに、国民に失望が広がっている。

 大統領選当時、左派のルラ元大統領をはじめ、有力政治家ら100人以上が有罪判決を受けたブラジル史上最大の汚職捜査「ラバジャット作戦」が進み、国民は次々に浮上する汚職にうんざりしていた。もともと泡沫(ほうまつ)候補とみられていたボルソナロ氏はルラ氏を厳しく批判し、汚職への「寛容ゼロ」を訴え当選した。

 ボルソナロ氏は1991年から7期連続で南部リオデジャネイロ州選出の下院議員を務めたが、政界の要職に就いたことはなかった。旧来の汚職政治家と距離を置く「アウトサイダー」として、政界の汚職体質を変えてくれると国民は期待したのだ。

 ボルソナロ氏は大統領選直前、小政党「社会自由党」(PSL)に入党して選挙戦を戦った。PSLは「ボルソナロ人気」にあやかり、大統領選と同時実施された上院選(定数81、うち54議席改選)、下院選(定数513、全議席改選)でそれぞれ4議席、52議席を獲得して大躍進した。選挙前、PSLは下院に8議席を持つだけだった。

息子と閣僚の汚職疑惑には捜査妨害も

 政権発足後、ボルソナロ氏は家族と閣僚に迫る汚職捜査には「寛容ゼロ」とはほど遠い対応を取った。それどころか、捜査妨害と受け止められたり、自身への飛び火を防いだりするような言動を続ける。

 まず政権発足直前の2018年12月、リオ州議会議員だった長男フラビオ氏(現上院議員)の政治資金問題が発覚した。金融活動監視審議会が、120万レアル(約3500万円)の使途不明金があると公表したのだ。

 検察は、勤務実態のない秘書の給与などとして公金をだまし取ったという疑いを持っている。ボルソナロ氏の友人であるフラビオ氏の秘書が工作をしたものの、実際にはフラビオ氏が不正を主導したとみて詐欺や業務上横領、マネーロンダリング(資金洗浄)容疑で捜査。フラビオ氏が転売したマンションや、共同経営するチョコレート販売店の購入資金に使途不明金をあてたとみている。検察は19年12月、フラビオ氏やボルソナロ氏の元妻らの関係先24カ所を家宅捜索し、裏付け捜査を進める。

 フラビオ氏は疑惑を全面否定し、ボルソナロ氏も「証拠はない」と不正を認めていない。ボルソナロ氏は19年8月、検察の指揮下で捜査にあたるリオ州連邦警察の長官を交代させた。大統領が連邦警察の人事に介入するのは異例で、捜査妨害と指摘された。しかも、勤務実態のない秘書とされていたのは殺人事件で警察に指名手配されている犯罪組織リーダーの母と妻だったことが分かり、ボルソナロ一家の「闇の交友関係」が明らかに…

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さいたま支局

2003年入社。千葉支局、東京社会部、福岡報道部、サンパウロ支局を経験。