北朝鮮が文大統領に冷淡になったわけ

坂井隆・北朝鮮問題研究家
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軍事境界線から首脳会談の会場に向かう北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と韓国の文在寅大統領=板門店で2018年4月27日、韓国共同写真記者団撮影
軍事境界線から首脳会談の会場に向かう北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)と韓国の文在寅大統領=板門店で2018年4月27日、韓国共同写真記者団撮影

 北朝鮮は2年前の2018年2月、韓国・平昌(ピョンチャン)で開催された冬季五輪に際して選手団・応援団に加え金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹・金与正氏ら高官を派遣し、これを皮切りに韓国との交流を活発化させた。

 しかし、最近の北朝鮮の韓国に対する姿勢は韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権の変わらぬ融和の努力にもかかわらず冷淡なものとなっている。こうした北朝鮮の変化の背景には何があるのだろうか。

18年の蜜月関係が昨年から冷却

 北朝鮮は18年4月、板門店南側地区での南北首脳会談に応じた。9月には文大統領の北朝鮮訪問を盛大に歓迎し、両首脳の平壌共同宣言を出すともに軍事分野履行合意書を締結した。

 18年9月には開城工業地区内に双方の当局者が常駐する南北共同連絡事務所の開設を認めた。その後も18年中はさまざまな南北対話、共同行事、軍事面での信頼醸成措置などを次々と実施し、11月末には南北鉄道連結に向けた韓国側による北朝鮮国内の鉄道の現地調査まで受け入れるなど、蜜月関係を内外に印象付けた。

 しかし、19年2月にハノイでの米朝首脳会談が不調に終わったころから北朝鮮の対話姿勢は徐々に消極的なものとなり、各種の協議や交流を事実上の停止状態に陥らせた。

 さらに10月には金委員長直々の指示により金剛山地区所在の韓国側観光施設の撤去を要求。11月には金委員長が韓国に隣接する最前線の軍部隊を視察し砲撃を指示するなど、対決姿勢を鮮明にしている。文大統領が示す南北の経済協力構想にも冷淡な反応しか示していない。

背景に韓国の約束不履行への不満

 変化の理由として一般に指摘されるのは、韓国側が北朝鮮を圧迫する米国に同調して宣言や合意などを実施していないとする不満だ。

 北朝鮮は、韓国が国連経済制裁の制約により北朝鮮に対する実質的な経済支援をできずにいることや、米国との軍事同盟に基づく合同軍事演習を継続す…

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坂井隆

北朝鮮問題研究家

1951年生まれ。78年公安調査庁入庁、北朝鮮関係の情報分析などに従事、本庁調査第二部長を最後に2012年退官。その後も朝鮮人民軍内部資料の分析など北朝鮮研究を継続。共編著書に「独裁国家・北朝鮮の実像」(2017年、朝日新聞出版)、「資料 北朝鮮研究Ⅰ 政治・思想」(1998年、慶応義塾大学出版会)など