アフリカノート

「ムガベ独裁の方がましだった」経済が破綻するジンバブエ

小泉大士・ヨハネスブルク特派員
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復活したジンバブエドル札。銀行の前では現金を引き出すために人々が列を作っていた=ハラレで2020年1月22日、小泉大士撮影
復活したジンバブエドル札。銀行の前では現金を引き出すために人々が列を作っていた=ハラレで2020年1月22日、小泉大士撮影

 アフリカ南部ジンバブエで37年にわたり実権を握り続けたムガベ元大統領が失脚して2年あまり。長期独裁政権が崩壊した直後の期待は消え、南米ベネズエラに次いで深刻なハイパーインフレに見舞われている。「ムガベ時代の方がましだった……」。日々の食事もままならない国民からはそんな声が漏れる。

 1月下旬、ジンバブエの首都ハラレ。ガソリンスタンドの周辺をぐるりと取り囲むように、数百台の車が長い行列を作っていた。

 午前3時から並んでいるというタクシー運転手、パトリック・ジャカツさん(38)は「7時間以上待っても順番が回ってこない。給油するには車中泊しないといけない」と話した。

 割り込んできた車ともめていたシェパード・クボルノさん(32)は「(日々の生活は)タフどころか、ベリー、ベリータフだ」。仕事を休んで車列に加わった会社員ペトロネラ・グワイさん(43)も「いつまでこんな状況が続くのか」とうんざりした様子。燃料不足は慢性化し、列は延びる一方だ。

 ハラレ郊外のチトゥングウィザに車を走らせると、人々が地下水をくみあげる井戸の前にいくつものバケツを並べていた。住民のスチュワート・シヌライさん(42)は「ずっと前から蛇口をひねっても水が出ない」。NGOが掘った井戸は、電動と手押しポンプの2種類があったが、電動式は停電が頻発するのでほとんど使い物にならない。

 アグネス・アイザックさん(61)は「1日18時間も停電するなんて。この国はどうかしている」と話す。日中はずっと停電。ろうそくの明かりで夕食を取るのが当たり前になった。午後10時ごろになってようやく電気が付くが、翌朝起きるとすでに消えている。

 2017年11月に軍のクーデターでムガベ政権が崩壊したとき、歓喜した人々は街に飛び出し、新生ジンバブエの誕生を祝った。だが、庶民の暮らしは良くなるどころか、ひどくなる一方だ。食事の回数を減らし、学費を払えず子供を学校に通わせることもできない家庭が増えている。

 アイザックさんは「私たちは利用された。彼らは望み通りに政権を奪取したら、国民のことなど忘れてしまった」と憤った。

 医療制度も機能していない。「この国では病気になっても治療を受けられず、見殺しにされるだけ」。ハラレにある同国最大規模の医療機関パリレニャトワ病院の駐車場で、イノス・マテマイさん(54)が疲れ切った表情で語った。

 医師は賃金の引き上げを求めて昨年9月からストライキを続けていた。腎不全の夫(58)が通院しても専門医は不在。人工透析の機器も壊れて動かなかった。深夜に容体が急変。病院に駆け込んだが、「待合室でストレッチャーに寝かされたまま息絶えた」という。

 ルシア・ヌゴニャマさん(49)も途方に暮れていた。次男(25)は昨年のクリスマスに発砲事件に巻き込まれ、1発が腰に命中した。だが病院には医師がおらず、1カ月たっても銃弾は体に残っ…

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小泉大士

ヨハネスブルク特派員

インドネシアの邦字紙で7年間勤めた後、2006年入社。さいたま支局、社会部を経て、2016年4月から現職。