韓流パラダイム

韓国#MeToo運動に逆風? 告発者への報復人事に「無罪」判決

堀山明子・ソウル支局長
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2019年1月24日、元検察局長に対してソウル中央地裁が懲役2年の実刑判決を言い渡したのを受け、弁護士会館で記者会見する徐志賢検事=朝鮮日報提供
2019年1月24日、元検察局長に対してソウル中央地裁が懲役2年の実刑判決を言い渡したのを受け、弁護士会館で記者会見する徐志賢検事=朝鮮日報提供

 韓国の#MeToo運動が、2年目にして逆風にさらされている。検察内部のセクハラ被害を明らかにした「告発第1号」の徐志賢(ソ・ジヒョン)検事(46)を左遷する人事を指示した元検察局長に対し、最高裁は1月に1、2審の有罪判決を破棄し、差し戻した。

 事実上の無罪判決と言える判断に、告発運動を支援してきた女性たちの間には戸惑いが広がる。

 韓国で#MeToo運動が広がったのは、社会的パワーがあると思われていた女性検事が第1号となったインパクトが大きかった。判決は、韓国社会でバックラッシュ(反動)が始まったということなのだろうか?

 徐さんは2010年10月、検察幹部から体を触られる被害を受けた。職場の関係者を通じて加害者に謝罪を求め続けていたところ、15年8月に部長職がいない遠隔地での勤務を命じられた。加害者の検察幹部は当時、人事を総括する検察局長に昇進していた。

 「報復人事だ」。徐さんは法相に不当性を訴えるメールを送ったが問題は解決されず、18年1月に検察内部の掲示板に経緯を暴露する文を載せ、テレビにも出演した。社会的反響の広がりを受け、検察は捜査を査施。時効をすぎたセクハラは立件できなかったものの、報復人事は職権乱用罪にあたるとして元局長は起訴された。

 1、2審はセクハラと人事の因果関係を認め、被告に懲役2年の実刑判決を下した。この流れが固まるかに見えた。ところが、最高裁は20年1月9日、「担当者には人事対象者全員に対し、いろいろな考慮をして総合的に人事案をつくる裁量がある」と指摘し、職権乱用罪は成立しないと下級審の判断を覆した。

 「私の判決が、人事報復、2次加害を社会が許す方向へ、再び道を開いてしまったのではないか」。ソウルに駐在する外国メディアで作る組織である外信記者クラブで2月に会見した徐さんはこう語り、無念の思いを率直に打ち明けた。

 「最高裁判決の前夜、涙が止まらなかった。結果がどうであれ、これでようやく終わると。でも判決を聞いて、まだ終わらないのか、まだ闘わなければならないのかと思った。本当につらい」

 セクハラや性暴力が黙認される社会に逆戻りするのではという危機感は、支援団体にもある。300団体以上が参加する「#Me Too運動とともにする市民行動」のメンバーは判決直後の1月13日、最高裁前で記者会見し、「私たちの運動は壁にぶちあたった。告発前の振り出しに戻ることは絶対に許されない」と訴えた。

 実際には、韓国社会の意識は大きく変わった。徐さんが告発した翌月の18年2月、韓国言論財団が行った世論調査によると、20~50代の男女の88・6%が「Me Too運動を支持する」と答えた。

 その後、文学界、映画界、政界、スポーツ界など各分野の巨匠を含む多くの男性が告発された。警察庁によると、捜査当局は18年1~8月に#MeToo告発絡みで42件を捜査し、38件を起訴…

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堀山明子

ソウル支局長

1967年生まれ。91年入社。静岡支局、夕刊編集部、政治部などを経て2004年4月からソウル支局特派員。北朝鮮核問題を巡る6カ国協議などを取材した。11年5月からロサンゼルス特派員。18年4月から現職。