日本の民主主義は健全か?危機で露呈したガバナンスの崩壊

田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長
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田中均氏=根岸基弘撮影
田中均氏=根岸基弘撮影

 民主主義において、健全な統治機能(ガバナンス)を支える重要な概念は、「適正な手続き」と「説明責任」である。

 法の下の適正な手続きに従って権力が行使されること、そして問題が生じた場合に説明責任が果たされないと、民主主義は成り立たない。

 適正な手続きがなければ国民の利益のために公正な統治が行われているかわからないし、説明がなければ国民は闇に置かれ、またその説明が成り立たなければ為政者は責任をとらなければならない。

 あまりにも当然のことであるにもかかわらず、最近、日本ではそのような基本概念がいとも簡単に損なわれはじめていることに強い危機感を持つ。

 まず首相主催の「桜を見る会」について招待者名簿が廃棄されていることには驚愕(きょうがく)する。毎年開催され公費が支出される行事について前年の招待者名簿を参照しないで招待者を決めることはあまりに常識的ではない。社会に貢献した人々を招待するという基準に合致しているのかどうか、それともそのような基準と関係なく地元の後援者を呼んだのか、判断しようもない。

 そして東京高検検事長の定年延長問題。国家公務員の定年の例外的延長の適用対象にないことが国会でも答弁されてきているにもかかわらず、法の番人たる法務省は解釈を口頭決裁で変更したという。

 政治的中立性との関係で微妙な問題について、口頭で解釈を変え、なおかつそれを文章化していないといったことは異常な事態だ。さらに、国会会期中にもかかわらず閣僚が唐突に辞任し、今日まできちんとした説明責任が果たされていないことは許されるのか。

 これらの事象にはいずれも統治者の利益擁護が根底にある、との疑念が潜んでいるからこそ、私たちはやるせない気持ちになる。――日本の民主主義社会の健全性は根底から損なわれているのではないか。すべて同根なのではないか――そう思わざるをえない。

 そもそも何故このようなガバナンスの劣化が起こ…

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田中均

日本総合研究所国際戦略研究所理事長

1947年生まれ。69年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官、在サンフランシスコ日本国総領事、経済局長、アジア大洋州局長を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、05年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、10年10月に(株)日本総合研究所国際戦略研究所理事長に就任。06年4月より18年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、19年)、『日本外交の挑戦』(角川新書、15年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、09年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、09年)など。