2019年8月9日、和泉洋人首相補佐官と厚生労働省の大坪寛子官房審議官が京都大iPS細胞研究所(CiRA)を訪れた際、山中伸弥教授に対し、iPS細胞ストック事業の予算カットを迫ったという話がある。11月に山中教授が日本記者クラブの記者会見で異を唱えたためこの問題は明るみに出て、来年度予算は確保されることになったが、私は予算カットが持ち上がった経緯に関心を持ち、今年1月29日の参院予算委員会で大坪氏に質問した。
入手した二つの文書
その際私は二つの資料を示した。一つ目は、2019年8月9日付の「iPS細胞ストック製造事業法人化の進め方」と題した文書。「(新設する)法人に対しては国費を充当しない」とはっきり記されている。
もう一つは、和泉、大坪両氏と文部科学省、経済産業省の官僚の計6人で8月16日に行われた会議録。ここでは、8月9日付文書が山中教授と合意したものとして示され、大坪氏の発言として「概算要求資料からストック製造の部分を除いて」「中核拠点の予算13億円のうち、(国費充当対象とする基礎的研究)にあたるのは基礎整備の0.5億円くらい」「方針は決まっています」などといった生々しいやりとりが書かれている。
私は二つの文書について大坪氏らに真偽を正したが、会議開催は認めたものの、文書の存在については認めなかった。
科学技術研究は政権のおもちゃではない
そもそもiPS研究に対する支援は、安倍内閣の成長戦略の一つだったはずだ。2012年に山中教授がノーベル賞を受賞した際、成長戦略の目玉を探していた政権が飛びつき、iPS研究を柱とした再生医療に10年間で1100億円の予算をつけるという方針を打ち立てた。
この中核となるストック事業の予算をカットするのなら、その判断は誰が行ったのか、根拠は何かを明らかにすべきだ。大坪氏は、山中教授との会合を「意見交換」と呼び、8月16日の会合は「…
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