北朝鮮「新型コロナ」で韓国に揺さぶり?

坂井隆・北朝鮮問題研究家
  • 文字
  • 印刷
朝鮮人民軍部隊の合同打撃訓練。金正恩朝鮮労働党委員長が視察した=2020年2月28日、朝鮮中央通信・朝鮮通信
朝鮮人民軍部隊の合同打撃訓練。金正恩朝鮮労働党委員長が視察した=2020年2月28日、朝鮮中央通信・朝鮮通信

 北朝鮮の内外の動向には2月末以来、さまざまな面でめまぐるしい動きがある。何を意味するのか、何を目指しているのかなどを検討する。

軍が大規模演習を実施、ミサイル発射も敢行

 朝鮮人民軍は2月28日に陸・海・空軍の合同打撃訓練を、3月2日に前線長距離砲兵区分隊の火力打撃訓練を、それぞれ金正恩朝鮮労働党委員長の指導下で実施した。

 後者に際しては、昨年10月、11月に発射実験が行われた「超大型放射砲」から飛行距離約240キロ、高度約35キロの飛翔体(ひしょうたい)2発が20秒間隔で発射された(韓国軍推定)。

 この動きからまず言えるのは、北朝鮮のミサイル戦力の強化だ。昨年は実験段階だった超大型放射砲が現在は実戦部隊によって運用されている。発射間隔も短縮されている。また、超大型放射砲などを運用する前線長距離砲兵区分隊の訓練が2月28日の他の砲兵部隊の訓練とは別に実施されたことも注目される。

 背景には、昨年12月の党中央軍事委員会拡大会議での「党の軍事戦略企図に合わせ、新たな部隊(複数)を組織しまたは拡大改編する」との決定があるとみられる。

 一方、対米交渉の文脈からは戦力強化をにじませつつも過度の刺激は自制したといえるだろう。北朝鮮が昨年5月に実施した同様の火力訓練の報道に際して用いた対外けん制的な表現が今回はみられないこと、ミサイルの飛距離・高度を昨年10月、11月の試射時(370~380キロ、90~97キロ)に比べて相当低下させていることなどがその根拠だ。

金与正談話と金正恩親書で韓国に硬軟の働きかけ

 朝鮮中央通信は3月3日、金委員長の実妹・金与正党中央委第1副部長名義の談話を発表した。韓国大統領府が北朝鮮のミサイル発射などに強い遺憾を表し中断を要求したことなどを非難したもので、「低能な思考」「3歳の子と大差ない」「怖気(おじけ)づいた犬ほどよく吠(ほ)える」など辛辣(しんらつ)な表現が多用されていた。

 ところが韓国大統領府は金委員長から文大統領に対し、4日、韓国における新型肺炎のまん延に対する「慰労の意」などを盛り込んだ親書を送付してきたことを明らかにした(詳細内容は非公開)。

 金委員長の親書送付については、新型肺炎対策のための韓国からの支援獲得に向けたものとの観測もある。それが正しければ、金与正氏の談話は韓国に膝を屈して支援を乞うたわけではないことを示す演出とも考えら…

この記事は有料記事です。

残り886文字(全文1882文字)

坂井隆

北朝鮮問題研究家

1951年生まれ。78年公安調査庁入庁、北朝鮮関係の情報分析などに従事、本庁調査第二部長を最後に2012年退官。その後も朝鮮人民軍内部資料の分析など北朝鮮研究を継続。共編著書に「独裁国家・北朝鮮の実像」(2017年、朝日新聞出版)、「資料 北朝鮮研究Ⅰ 政治・思想」(1998年、慶応義塾大学出版会)など