欧州の分岐点

新型コロナ危機で欧州は経済の「分断」を乗り越えるか

中西啓介・外信部記者
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債務危機の深刻化で預金引き出し制限が実施されたギリシャでは銀行前に列ができ、世界のメディアがその様子を伝えていた=アテネで2015年7月1日、中西啓介撮影
債務危機の深刻化で預金引き出し制限が実施されたギリシャでは銀行前に列ができ、世界のメディアがその様子を伝えていた=アテネで2015年7月1日、中西啓介撮影

 新型コロナウイルスの世界的大流行により世界経済は景気後退(リセッション)入りが確実視されている。日米欧の各国政府が企業への資金融資など積極的な財政出動と中央銀行による大規模な金融緩和に乗り出す中、ドイツまでもが2005年のメルケル政権発足以来、強いこだわりを持ってきた「国債の新規起債ゼロ」という財政規律の継続を断念し、7年ぶりに新規国債発行に踏み切った。

 ドイツの従来姿勢は欧州連合(EU)内で経済政策を巡る分断を生み出すほどのものだった。そうした経済的な価値観を巡る欧州の対立を振り返りながら、新型コロナ危機が欧州の未来にどのような変化をもたらすのか検証する。

「史上最大の財政支援策」

 「国民の健康と雇用、企業を守るため、そして国を守るため、我々は全力を尽くします」。3月23日、ショルツ独財務相はこう述べ、新型コロナ対策として総額1560億ユーロ(約18兆7200億円)に上る過去最大規模の補正予算案を発表した。

 独政府は新型コロナ対策として、個人や企業などへの支援に今年だけで1225億ユーロが必要と予測。一方で、企業活動の停滞や個人消費の落ち込みなどにより、歳入が当初予想より335億ユーロ減少するとし、総額1560億ユーロを新規国債で調達することにした。

 今回の方針転換を決断したのはメルケル独首相だった。3月11日にベルリンで開いた記者会見で「必要なことは全てやる」とし、予算の上限を考慮することなく新型コロナ対策にあたる考えを示していた。

 支援策では小規模や個人事業者向けに3カ月分の経費の補填として9000~1万5000ユーロ(約108万~180万円)の助成金を支給。また、大企業向けに経済安定化基金を創設し、倒産回避のため財政支援を行うことを決めた。

 DPA通信は、ルフトハンザ航空など独経済に大きな影響を及ぼす巨大企業が経営危機に陥るような事態になれば、政府は一時的な国営…

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中西啓介

外信部記者

1979年生まれ。2006年、毎日新聞社入社。甲府支局、社会部千葉支局を経て外信部。15年4月~19年4月、ベルリン支局長。海外からの初のアイヌ遺骨返還につながる国際調査報道や、独メディアへの寄稿を行う。ベルリン最古の記者クラブに所属し、メルケル政権の閣僚らへの取材経験が豊富。東西ドイツ統一前後の独政治史や、欧州での極右の台頭、中道左派の衰退などをテーマに取材している。趣味は甲府勤務時代に始めたクライミングとコーヒー豆の焙煎(ばいせん)。