新型コロナウイルス危機対処に「ICBM戦略」を

田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長
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田中均氏=藤井達也撮影
田中均氏=藤井達也撮影

 世界にとって、日本にとっての危機だ。賢明な対処がされないと、日常生活に長く、壊滅的な打撃を与えよう。こういう危機対処には戦略構築が必要だ。外交には交渉がつきものだし、交渉で結果を作るためには緻密な戦略が必要となる。戦略は理念でも政策でもなく、目的達成のための手立てだ。危機対処にも同じような考え方が必要になる。

 新型コロナウイルス危機対処の目的は感染拡大防止だが、未知の部分が多い新型ウイルスであり、対処には大きな負担を国民にもたらす。外交交渉と同じように状況に応じ戦略を築いていくことも必要になるが、基本的な考え方を整理しておかないと場当たり的な対処になってしまう。

 筆者は近著「見えない戦争」(中央公論新書ラクレ、2019年11月)で外交交渉の経験に基づく「ICBM戦略論」を唱えた。これは私がプロフェッショナルとして何をすべきか、何を意識すべきか、外務官僚として心がけてきた四つの戦略指針である。これは外交に限ったわけでなく、どんな職業においても、また人間のあらゆる営みや危機的状況においても適用できる考え方であり、私塾でも若手~中堅の幅広い業界に所属する多くの塾生に指導してきた戦略論である。

 ICBM(大陸間弾道ミサイル)は、冷戦時代、米国とソ連が大量の大陸間弾道ミサイルで相互を標的とすることで戦争を抑止できると考えられた最も戦略的な兵器だ。戦略の基本はICBMのごとく、戦争を抑止することを目的としなければならない。私の唱える戦略論は、I(Intelligence-情報)、C(Conviction-確信)、B(Big Picture-大きな絵)、M(Might-力)の4要素から成る。これは政府も、地方公共団体も、企業も、そして個人においても、危機を管理し、そして危機に打ち勝つ戦略として当てはめることが出来ると思う。

 新型コロナウイルス危機に当てはめて具体的に考えてみよう。まず必要なことは情報を収集し、分析し、評価することだ。新型コロナウイルスはいまだ得体の知れないウイルスで、感染を防止するワクチンも特効薬も存在しない。

 しかしこの感染症が中国武漢に発生して既に3カ月以上が経過し、今や世界に70万人を超える感染者と多数の回復者の症例が…

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田中均

日本総合研究所国際戦略研究所理事長

1947年生まれ。69年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官、在サンフランシスコ日本国総領事、経済局長、アジア大洋州局長を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、05年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、10年10月に(株)日本総合研究所国際戦略研究所理事長に就任。06年4月より18年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、19年)、『日本外交の挑戦』(角川新書、15年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、09年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、09年)など。