欧州の分岐点

不安な時つぶやきたくなるメルケル語録ベスト5

中西啓介・外信部記者
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首脳会談や記者会見などで常に余裕のある笑顔を見せるドイツのメルケル首相 =ベルリンで2018年7月20日、ベルリン支局助手メルリン・ズグエ撮影
首脳会談や記者会見などで常に余裕のある笑顔を見せるドイツのメルケル首相 =ベルリンで2018年7月20日、ベルリン支局助手メルリン・ズグエ撮影

 新型コロナウイルスの感染拡大は「死の恐怖」を現実化し、世界各地でパニックを引き起こしている。空になったスーパーマーケットの陳列棚や品切れが続くトイレットペーパー。人々の不安と焦りは常にフル充電状態だ。こういう時こそ、イライラや攻撃性とは無縁で、新型コロナ対策でも世論の厚い支持を獲得しているメルケル独首相の言葉に耳を傾けてみるのが良いかもしれない。

 せんえつながら「コロナ危機の今こそ読みたいメルケル語録ベスト5」を選定させてもらい、語録の背景にあるメルケル氏の歩んできた道と業績を紹介しながら、どうすれば強く柔軟な心を育むことができるのか探ってみた。

 2017年3月、トランプ米大統領との初の米独首脳会談を前にメルケル首相はこう述べた。当時のトランプ氏は「メルケル首相の難民受け入れ政策は惨劇」「ドイツ車に高額関税を課す」と豪語し、欧州連合(EU)を率いるドイツに通商交渉などで譲歩するよう強い圧力をかけていた。だが、トランプ氏は会談後、一転して穏やかな態度に変わり、メルケル氏について「偉大な指導者だ」とリップサービスまでした。

 「話せば分かる」というメルケル流を代表するこの表現は、メルケル氏がプーチン露大統領やトルコのエルドアン大統領と対立するたびに使ってきた表現でもある。「どんなこわもてな相手でも自分が出ていけば落としどころを見つけられる」という自信があるのだろう。プーチン氏と徹夜の交渉でまとめ上げたウクライナ紛争を巡る和平合意(14年)や、EUへの難民流入を止めたエルドアン氏とEUとの難民合意(16年)など、その自信には確固とした実績による裏付けがある。メルケル流交渉術の核心とは何か、次の言葉が表している。

 05年の首相就任以来、外交・内政の難題を安定感抜群の交渉術で処理してきたメルケル氏には、国民から「ママ」という愛称が贈られている。正論を貫き、ユーモアを忘れない余裕ある立…

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中西啓介

外信部記者

1979年生まれ。2006年、毎日新聞社入社。甲府支局、社会部千葉支局を経て外信部。15年4月~19年4月、ベルリン支局長。海外からの初のアイヌ遺骨返還につながる国際調査報道や、独メディアへの寄稿を行う。ベルリン最古の記者クラブに所属し、メルケル政権の閣僚らへの取材経験が豊富。東西ドイツ統一前後の独政治史や、欧州での極右の台頭、中道左派の衰退などをテーマに取材している。趣味は甲府勤務時代に始めたクライミングとコーヒー豆の焙煎(ばいせん)。