欧州の分岐点

不都合な事実としての「ドナルド・トランプ一家物語」

中西啓介・外信部記者
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トランプ米大統領の祖父フリードリッヒ・トランプ氏(1869~1918年)と祖母のエリザベート氏(1880~1966年)。この写真は二人が結婚した1902年に撮影された=カルシュタット村提供
トランプ米大統領の祖父フリードリッヒ・トランプ氏(1869~1918年)と祖母のエリザベート氏(1880~1966年)。この写真は二人が結婚した1902年に撮影された=カルシュタット村提供

 新型コロナウイルスという戦後最大の危機にどう対応するのかという課題は、世界の政治指導者の人間性を浮き彫りにしている。感染拡大の最中に東京オリンピック・パラリンピックに執着した安倍晋三首相や、「ちょっとした風邪」と現実から目を背けようとするブラジルのボルソナロ大統領。中でも飛び抜けて異様なのは、ウイルスの脅威を「完全にコントロールしている」と豪語しながら、世界最大の感染者数を抱えた後は自身のコントロールを失い、他人への責任転換に終始するトランプ米大統領の政治姿勢だろう。

 トランプ氏は大統領就任以前から移民や社会的少数者などを社会の不満のはけ口にする一方、事実と発言の矛盾点などを突きつけられると、「フェイク(偽)ニュースだ」と主張し、あらゆる責任を回避してきた。平時には時に笑いを買い、一部で強固な支持を得てきた政治手法は今、多くの人々の命を奪う新型コロナ危機によって、行き詰まりを見せている。希代のデマゴーグ(大衆扇動者)はどういう家庭で育まれたのか。その原点を探ると、19世紀のドイツの寒村にたどり着く。

貧しさゆえの移民だった米大統領の祖父

 「私たちは真のプファルツ人であり、忠実なるドイツ国民です。国外追放されれば、それは家族にとり大変厳しいことです。(ドイツに残るため)米国の市民権を喜んで放棄いたします」

 1905年6月、トランプ氏の父方の祖父であるフリードリッヒ・トランプ氏は出身地のドイツ西部プファルツ地方のカルシュタット村で、一帯を支配していたバイエルン公国の摂政ルイトポルト・フォン・バイエルン宛に嘆願書を書いていた。米国で成功を収め、一時帰国した時のことである。

 今はワイン産業と観光で栄える独西部プファルツ地方だが、当時は産業革命の波に乗り遅れた極めて貧しい地域だった。未来を描けない多くの若者たちが村を後にし、米国に移民として渡っていた。

 フリードリッヒ氏もそんな一…

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中西啓介

外信部記者

1979年生まれ。2006年、毎日新聞社入社。甲府支局、社会部千葉支局を経て外信部。15年4月~19年4月、ベルリン支局長。海外からの初のアイヌ遺骨返還につながる国際調査報道や、独メディアへの寄稿を行う。ベルリン最古の記者クラブに所属し、メルケル政権の閣僚らへの取材経験が豊富。東西ドイツ統一前後の独政治史や、欧州での極右の台頭、中道左派の衰退などをテーマに取材している。趣味は甲府勤務時代に始めたクライミングとコーヒー豆の焙煎(ばいせん)。