オアシスのとんぼ

韓国の感染症対策に見るリスクコミュニケーション

澤田克己・論説委員
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韓国・仁川空港で、出国者が発熱していないかをチェックする職員=2020年3月6日、坂口裕彦撮影
韓国・仁川空港で、出国者が発熱していないかをチェックする職員=2020年3月6日、坂口裕彦撮影

 韓国の新型コロナウイルス対策は、2015年の中東呼吸器症候群(MERS)流行での失敗を教訓にしている。検査体制の充実や徹底した感染経路追跡などについては日本でもよく報じられているが、それはMERS後に導入された新体制の2本柱のうち片方でしかない。韓国政府は翌16年に感染症対策のコントロールタワーである疾病管理本部の機能強化を図ったのだが、そこで疫学的体制の強化とともに重視されたのはリスクコミュニケーション機能の拡充だった。感染症対策には国民の協力が必須であり、国民から信頼されなければ効果を上げられないというのが得られた教訓だったからだ。

 疾病管理本部の機能強化では、24時間体制の緊急オペレーションセンターと本部長直轄のリスクコミュニケーション担当官室が新設された。当時のプレスリリースは「緊急オペレーションセンターが疫学的な防疫に責任を負うとすれば、心理的な防疫はリスクコミュニケーション担当官室が担当する」と説明している。それは、どういう意味だろうか。

 MERS流行時に韓国保健福祉省副報道官を務め、初代のリスクコミュニケーション担当官に就いた朴起秀(パク・キス)氏に「MERSで得た教訓」についてインタビューし、4月14日付毎日新聞朝刊に掲載した。ここでは紙面に書ききれなかったインタビュー内容も使いながら、韓国が採用したリスクコミュニケーションの手法について紹介したい。

正確な情報を素早く伝達し、公衆の信頼を得よ

 朴氏は「正確な情報を早く伝え、公衆の信頼を確保すること。そのためには、徹底的に国民の目線から情報発信をしなければならない」と強調する。

 MERS対応での代表的な失敗は、院内感染で広まったのに病院名公表が感染確認の18日後になったことだ。それも、ソウル郊外・城南市の野党系市長が政府の「情報隠し」を批判して市内の軍病院が受け入れた感染者数などを勝手に公表したのを受けて…

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澤田克己

論説委員

1967年生まれ。埼玉県狭山市出身。91年入社。ソウル支局やジュネーブ支局で勤務した後、論説委員を経て2018年から外信部長。2020年4月から再び論説委員。著書に『「脱日」する韓国』、『韓国「反日」の真相』、『反日韓国という幻想』、『新版 北朝鮮入門』(共著)など。