二つの非常識

森永卓郎・経済アナリスト、独協大学教授
森永卓郎さん=藤井太郎撮影
森永卓郎さん=藤井太郎撮影

 安倍政権が4月7日に緊急事態宣言を発出し、同時に緊急経済対策を発表した。そのなかで、政府は二つの世界の「非常識」を断行したのだと思う。

 一つは感染の実態を十分に明らかにしないままで、緊急事態宣言を行い、対象地域を線引きし、国民に自粛を求めたことだ。いま日本に新型コロナウイルスの感染者が何人いるのか。それにきちんと答えられる人は、専門家でもまったくいない。日本は市中感染率を調査していないし、市中感染率調査に近い役割を果たす大規模なPCR検査もしていないからだ。

 いま日本で行われているのは、重症患者と濃厚接触者に対する徹底したPCR検査だ。感染が発覚した初期に取られる水際作戦と同じことを延々と続けてきたのだ。ただ、そういうことを続けていると、検査対象から漏れる人が出てくる。現に、いま感染者のうち半数以上が、感染経路不明になっている。東京都では、4月に入ってからの2週間のデータで、3分の2が感染経路不明だ。市中感染が広がっている可能性を示唆する数字だ。

 そうしたなか、私はテレビ番組で、放送されていない時間に、10人以上の感染症の専門家や医師に、「個人的に日本には何人の感染者がいると思いますか」という質問を繰り返してきた。すると、答えが二極化していることに気付いた。片や数千人と答える専門家がいる一方で、数十万人と答える専門家がいるのだ。十分な調査をしていないから見方が分かれて当然なのだが…

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経済アナリスト、独協大学教授

1957年生まれ。日本専売公社、経済企画庁、三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)などを経て独協大経済学部教授。専門はマクロ経済、計量経済、労働経済。コメンテーターとしてテレビ番組に多数出演。著書に「年収300万円時代を生き抜く経済学」(光文社)など。