鼻の穴の奥へ、もっと奥へ。するする長い綿棒が差し込まれていく。「口で呼吸すると気が紛れますよ」と検査担当者の落ち着いた声。綿棒は、くしゃみを誘うポイントよりもさらに先へと進んでいく。鼻の穴ってこんなに深いのか。「うっ」。少し気持ち悪く感じた次の瞬間、綿棒が引き抜かれる。終わった。ものの1分足らず。粘液などが採取され、ウイルスの有無が分かるはずだ。
これが新型コロナウイルスのPCR検査の検体採取である。インフルエンザと同様の手法という。ただ、検査担当者は透明樹脂の顔面カバー、医療用マスク、ゴム手袋、不織布の防護服に靴カバーと完全防備姿だ。ワクチンのあるインフルとの違いは明白だった。
日本の水際対策として羽田、成田、関西といった主要国際空港で、欧米、中東など多くの国からの帰国者を対象に実施されている。私の場合は駐在先のエジプトから一時帰国した4月17日午後、羽田で検査を受けた。結果はすぐには出ない。「それまでどこで過ごせば良いのか?」「結果は陰性か陽性か?」。いくつもの疑問符が長距離移動でぼんやりとした頭に浮かぶ――。新型コロナ危機が続くいま、海外から日本へ帰国するとどんな手続きがあるのか。体験を報告する。
カイロ赴任直後の情勢急変
私がカイロへ赴任したのは、世界保健機構(WHO)が「パンデミック(世界的な大流行)」を宣言した3月11日の4日後のことだった。エジプトへの空路が止まる…
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