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政治化された「エビデンス」 新型コロナ研究不正疑惑の波紋

八田浩輔・外信部記者
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抗マラリア薬ヒドロキシクロロキン=AP
抗マラリア薬ヒドロキシクロロキン=AP

 新型コロナウイルス感染症の治療に関わる研究で不正疑惑が浮上した。複数の欧米の一流医学誌がこの研究論文のデータが信頼できないとして、掲載の撤回を発表したのだ。米国のトランプ大統領をも巻き込み、国際的に大きな注目を集めた研究だった。波紋は学術界の外へと広がっている。

有名医学誌が相次いで論文を撤回

 英国の「ランセット」誌と米国の「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)」誌は6月4日、既存薬を利用した新型ウイルスの治療に関する研究論文の掲載撤回を相次いで発表した。

 <抗マラリア薬の危険性指摘した論文撤回 新型コロナ治療の研究に疑義 米企業関与>

 どちらも筆頭著者は米ハーバード大関連病院の医師で、シカゴに拠点を置くサージスフィア社がデータ分析を担っていた。

 ランセットの論文は、抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンが新型ウイルスの治療に有効かどうかを検証したもの。世界の671病院で治療を受けた約9万6000人の患者データを分析した結果、新型ウイルスへの有効性が確認できないばかりか、死亡リスクが高まる可能性があると指摘した。

 だが5月22日に論文が発表されると、データの信ぴょう性について研究コミュニティーなどから疑問の声が上がった。新型ウイルスの被害が深刻な米国や欧州でサージスフィア社に患者データを提供したと認める医療機関が現れなかっただけでなく、論文で示された死者数などのデータも各国政府の公式発表と食い違いがあった。研究チームはデータの再検証にサージスフィア社の協力が得られないとして、二つの論文の撤回を申し入れた。

渦中の企業はホームページを閉鎖

 サージスフィア社は、新型ウイルスの流行が世界的に広がった2020年3月まで目立った活動歴がない無名の企業だった。ホームページでは、世界1200の医療機関と協力して2億4000万人の匿名化された世界最大級の患者データ…

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八田浩輔

外信部記者

科学環境部、ブリュッセル特派員を経て20年8月から外信部。欧州時事や気候変動をめぐる政治・社会の動きをウォッチしています。科学ジャーナリスト賞、日本医学ジャーナリスト協会賞を受賞(ともに13年)。共著に「偽りの薬」(新潮文庫)。