ウェストエンドから

英国は中国との対決姿勢にかじを切ったのか

服部正法・欧州総局長
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香港の国家安全法制に抗議する人々=香港で2020年5月24日(AP)
香港の国家安全法制に抗議する人々=香港で2020年5月24日(AP)

 中国が、香港の統制を強める「国家安全法制」の新設を決定したことを受け、香港の旧宗主国・英国が対中姿勢を硬化させている。香港返還に当たり、「1国2制度」を50年間保障することで中国と合意した英国では、中国政府が進める近年の香港への統制強化に対し、少しずつ懸念が募ってきていたが、香港の高度の自治を危うくする法制の新設決定で不信感が一気に噴出した形だ。香港問題だけではない。中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)を巡る問題や、新型コロナウイルス感染拡大への中国当局の対応などを通じて、英国で醸成され強まってきた「中国警戒論」は、今後の両国関係を変え、中国を取り巻く国際関係に影響を与える可能性もある。英国が中国への対決姿勢を強める背景には、どんな思いがあるのか。

 新型コロナ禍で英国全土がロックダウン(都市封鎖)となったのは3月23日。これより約2カ月前の1月中~下旬、私は英国内の著名な歴史家や国際政治学者らにインタビューを重ねていた。取材テーマは1月31日に迫ったブレグジット(英国の欧州連合=EU=からの離脱)。このころ、英国における最大の関心事は「ブレグジット後」がどうなるかで、専門家の考えや分析を尋ねて回っていたのだが、面白いことに、相次いでほぼ同じ内容の「逆質問」を受けた。インタビュー後の雑談の際、「ところで、中国は将来どうなると思いますか」と尋ねてくるのである。

 刑事事件の容疑者の香港から中国本土への引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案を巡り、香港では2019年6月以降、これに反対する大規模な抗議活動が展開された。「中国の将来」を尋ねる彼らは、香港の状況に言及した。

 中国と関係の深い日本から来たジャーナリストの意見や分析を聞いてみたい――との思いだったのだろうが、いかんせん、私は中国問題の門外漢。披歴できるほどの見識を持ち合わせておらず、しどろもどろに私見を述べただけで、残念ながら彼らをがっかりさせてしまったに違いない。ただ、私にとっては、香港問題が英国人にとってはやはり強い関心事であり、香港問題を中国政府について考える一つの重要な要素と捉えていることや、中国が価値観の相いれないグローバルパワーになっていくのではないかと専門家の間に不安感や警戒感が強くなっていることが、強く印象づけられる機会となった。

 そして、5月28日、中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が国家安全法制の新設決定を可決した。言論や集会の自由が保障されている香港で、香港の議会に当たる立法会での議決を経ないまま、反政府活動を取り締まる法律を制定できるようにするという「禁じ手」である。

 これに対する英国の対応はスピーディーで、反対姿勢は鮮明だった。

 香港には、香港返還(1997年)以前に香港に居住していた人で希望する人に対して英国が発行した「英国海外市民」という旅券を持つ市民が30…

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服部正法

欧州総局長

1970年生まれ。99年、毎日新聞入社。奈良支局、大阪社会部、大津支局などを経て、2012年4月~16年3月、ヨハネスブルク支局長、アフリカ特派員として49カ国を担当する。19年4月から現職。著書に「ジハード大陸:テロ最前線のアフリカを行く」(白水社)。