Social Good Opinion

「中立主義」から抜け出して、オンリーワンの主権者になること

別木萌果・岡山大学大学院教育学研究科修士課程
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別木萌果さん
別木萌果さん

投票率が低いから主権者教育をしよう(?)

 私は今、中学校社会科の教師を目指しています。

 社会科教師を目指すようになったのは高校生の時、米国のテレビドラマで性的マイノリティー(少数者)について知ったことがきっかけでした。

 日本でも偏見があること、法整備が進んでいないことを知り、「有権者に知識がないと政治はよくならないんじゃないか?」「受験のための社会科じゃなくて、今誰かのために役に立つ社会科を子どもに教えるべきでは?」と思ったことを覚えています。

 2015年6月、公職選挙法の一部が改正され、18歳から選挙に行けるようになりました。

 しかし19年7月におこなわれた参院選では10代が32.28%、20代が30.96%(総務省による抽出調査)と若い世代の投票率は軒並み低くとどまっています。

 また、日本財団が19年11月に発表した調査では、「社会問題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論している」と回答した18歳は27.2%、「自分で国や社会を変えられると思う」と回答した18歳は18.3%と、他国と比べても若者の社会に対する姿勢が消極的である現状が明らかとなっています。

日本財団18歳意識調査「国や社会に対する意識(9カ国調査)」より引用
日本財団18歳意識調査「国や社会に対する意識(9カ国調査)」より引用

 このような状況を打開するため、全国の学校では主権者教育の推進のためさまざまな取り組みが行われています。

 社会科教師による授業だけでなく、選挙管理委員会やNPO法人など外部団体による出前授業も盛んにおこなわれ、私自身も学生団体として出前授業を実施してきました。

 しかし本当に現状の主権者教育で若者の政治参加は進むのでしょうか?

意見を言うことから始めよう

 民主主義とは「みんなのことは、みんなが話し合って決めること」です。エリート任せにするのではなく、自分の意見を言うことで、社会に自分の立場を示すことが重要です。

 知識ももちろん必要です。知識がなければ判断できないことも多いと思います。しかし、知識があれば意見が言えるようになるというわけでもありません。

 現状の主権者教育ではこの「意見を言うこと」の練習が足りていないのではないでしょうか。

 意見を言うことへのハードルとなっているものは四つあると思います。

 一つ目は、物事には正解があると思ってしまうこと。私自身、政治的に意見の分かれる問題(正解がひとつでない問題)については意見を言うのをためらってしまいます。

 例えば、現政権に賛成か反対かという問題について。賛成と言えば反対派から批判されそうだし、反対と言えば代案を出せと言われそうだと思ってしまいます。意見を表明せず、中立っぽい立場に安心感を得てしまう、そんな自分がいます。

 しかし社会運動について研究している富永京子さんは『みんなの「わがまま」入門』で、「私たちはすでに大体偏っているから、何もしないのが『中立』ではない」、「『正解がない』という事実にまずは慣れてみる」ことが必要、と述べています。

 教師やニュースキャスターの話を聞いて、賢そうな人の言説を受け入れて終わってしまう人は多いのではないでしょうか。正解はひとつでないのだから、今の時点での自分の正解を大切にできるような教育が必要だと考えます。

 <今週の本棚『みんなの「わがまま」入門』=富永京子・著

 二つ目は、自分は「ふつう」だという感覚。

 自分を「ふつう」だと思うと、「みんな同じように考えているはずだから自分の意見をわざわざ言わなくてもよい」という思いにつながってしまうかもしれません。

 また、誰かの主張に対して「みんな困っているのに一人だけわがままを言っている」と思ってしまうかもしれません。

 似たような外見で、似たような生活をしている人と一緒に過ごしていると、自分の生活や自分の考え方が「ふつう」だと思ってしまいます。しかし本来は、人はみんな考え方も抱えている苦しみも多様なはずです。

 自分が本当は「ふつうでない」と気づかせる教育によって、自分の意見を言いやすくなる、他者の意見を受け入れやすくなることにつながるのではないでしょうか。

若者と議員が話すイベントの様子=鈴木洋一さん撮影
若者と議員が話すイベントの様子=鈴木洋一さん撮影

 三つ目は、見本となる大人がいないこと。

 親が選挙に行くことと、その子どもが選挙に行くことには相関があることが明らかになっています。子どもが親の姿を見て「選挙に行くのは当たり前」と思うのかもしれません。

 では、選挙に行くという行為以外に、大人は子どものどんな見本になれるでしょうか。

 例えば、自分の政治的な意見を言うこと、相手の意見を受け入れる姿勢、実際に行動に起こすこと、など。多様な主権者のありかたを示すことができるはずです。

 しかし実際には教師や親は仕事に忙しく、主権者の見本を十分に子どもに見せてあげられていないのではないでしょうか。

 四つ目は、無力感です。

 「意見を言っても政治はどうせ変わらない」と思ってしまうことは仕方のないことかもしれません。私自身も教員の働き方改革や夫婦別姓の問題について関心を持っていますが、いつ政策は前に進むのだろうと、考えるのをやめたくなってしまいます。

 少しずつ政治が変わっていることを教師やメディアが見せること、そして政治や行政には実際に政策を進めてもらうことを心から求めたいです。

高校で出前授業を行っている様子=車世栄さん撮影
高校で出前授業を行っている様子=車世栄さん撮影

 私は主権者教育が重要だと信じている一方で、自分が政治的な意見を言うことをずっとためらっていました。同じように、意見を言うことは面倒で、勇気のいることだと思う人も多いと思います。

 しかし、自分のできる範囲で発言したり行動したりする、オンリーワンの主権者が増えることが、もしかしたら教師による主権者教育以上に、その次の世代のオンリーワンの主権者をまた増やすのではないかと私は考えています。

別木萌果

岡山大学大学院教育学研究科修士課程

1998年生まれ。学生団体ivote元代表。現在は岡山大学大学院教育学研究科修士課程で社会科教育学の研究をしながら、中学校社会科教師を目指している。その他、主権者教育について考える教員向けワークショップや高校生向けの社会教育コミュニティーの運営に携わっている。