改憲めぐる倒錯と二枚舌

青木理・ジャーナリスト
青木理さん=長谷川直亮撮影
青木理さん=長谷川直亮撮影

 もはや現政権下での改憲などどう考えても無理だと思われるのに、コアな支持層へのリップサービスなのか、支持をつなぎとめるための方便なのか、なおも安倍晋三首相は改憲への“意欲”を示しつづけている。政治記者でない私にその真意を知るすべはないし、正直に記せば、さほど知りたくもないのだが、先の国会閉幕に伴う6月18日の記者会見でも首相は、改憲を呼号する産経新聞の記者に水を向けられ、改憲論議に応じない野党への憤まんを口にしつつ次のように訴えた。

 「自民党の総裁として、総裁任期の間に憲法改正を成し遂げていきたい。その決意と思いに、いまだ変わりありません。自民党のルールに従って、任期を務め上げていく。これを変えようということはまったく考えていない。この任期内にやり遂げなければならないと思っています」

 振り返ってみれば、現政権やその周辺が訴えてきた改憲方針にはおよそ節操というものがない。とりあえずの本命は9条であり、現行の9条を維持したまま自衛隊を明記するのだと主張する一方、以前には改憲手続きを定めた96条をあらためて改憲のハードル自体を下げてしまおうと訴えたこともあった。多くの人の抵抗感が薄いだろう項目から手をつけたらどうかという“お試し改憲論”が与党内に飛び交ったことさえある。

 要は改憲できるならなんでも構わない改憲マニアの改憲ごっこ。そんな連中に憲法をいじられたらたまらないと私などはうんざり眺めているのだが、ここにきて再び盛んに唱えられるようになったのが緊急事態条項の創設である。コロナ禍の衝撃に乗じて一時は与党幹部からそうした主張が漏れだし、6月18日の会見でも首相はこのように言及している。

 「自民党は憲法改正に向け、緊急事態条項を含む四つの項目について、すでに改正条文のたたき台を示しています」「いま目の前にある課題を決して先送りすることなく解決していく、これは私たち政治家の責任です」

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ジャーナリスト

1966年生まれ。共同通信社会部、外信部、ソウル特派員などを経て、2006年よりフリーとして活動。主な著作に「絞首刑」(講談社)「日本会議の正体」(平凡社)など。最新刊は「暗黒のスキャンダル国家」(河出書房新社)。