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コロナ禍のわだかまりを吹き飛ばす「道徳」の効力

念佛明奈・ベルリン特派員
多くのドイツ人が参考にするという商品テスト雑誌「テスト」(左から2番目)。2020年7月号は豚肉を特集している=ベルリンのスーパーで7月、念佛明奈撮影
多くのドイツ人が参考にするという商品テスト雑誌「テスト」(左から2番目)。2020年7月号は豚肉を特集している=ベルリンのスーパーで7月、念佛明奈撮影

 「もしかするとこれは、新型コロナウイルスの出現によって私の心に影を落としてきた『嫌な感じ』を吹き飛ばす解決策になるんじゃないか」。ドイツの哲学者、マルクス・ガブリエル氏(40)のオフィスのソファに座り、話を聞きながら私はわくわくしていた。

 新型コロナが流行して以降、私はドイツで2度、通りすがりに人から「コロナ」と呼ばれて嫌な気持ちを味わった。同時に、外国にルーツを持つ人に「国に帰れ」と言い、営業を自粛しない企業がさらし者になるといった日本発のニュースにも気分がふさいだ。

 インタビューをする前にガブリエル氏の著作などを読む中で、ぜひ聞いてみたいことがあった。それは「道徳」についてだ。

 ガブリエル氏は「世界史の針が巻き戻るとき 『新しい実在論』は世界をどう見ているか」(PHP新書)で、「本当にモラリティを売っている会社があったなら、その会社は持続可能な超巨大企業になるでしょう」と述べている。

 モラリティは「道徳」や「倫理」という意味だ。ガブリエル氏は、企業が倫理学者を雇って倫理委員会を作り、その会社の事業が「道徳的に良いか」を判断する仕組み作りに言及している。倫理委員には終身在職権を与え、雇用を保障することが重要だという。

 例えば、レモンを大量に輸出する企業。同社の倫理委員会が、レモン輸出にかかわる一連の取引で排出される二酸化炭素(CO2)の量や除草剤の使用量を調べ、どの程度の動物と人間が犠牲になるかを写真付きで最高経営責任者(CEO)に報告したらどうなるか。

 CEOが「もっといい解決法を見つけよう」と言う、というのがガブリエル氏の考えだ。仮にCEOが道徳的に問題があると気付かない場合は、倫理委員会がCEOの姿勢を内部告発し、結果的にCEOは会社を去ることになる、というわけだ。

 ガブリエル氏はこれを「倫理資本主義」と名付け、人類が直面する危機の解決につながると主張していた。同…

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ベルリン特派員

1980年生まれ。2004年入社。盛岡支局を皮切りに、政治部や大阪社会部で主に政治・行政取材を担当。19年春からベルリン特派員。