
香港問題や新型コロナウイルス感染の拡大、中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)に関する議論などを巡り、英国が中国に対し対決姿勢を強めている。そう前回の当コラム<英国は中国との対決姿勢にかじを切ったのか>で書いた。その後の状況を見ていると、オーストラリアやカナダなどもこれまでにないほど対中姿勢を硬化させており、英国との連携強化の動きが目に付く。英国とこの2国に米国、ニュージーランドを加えた5カ国は、互いの情報機関同士が情報共有を進める「ファイブアイズ」という枠組みをつくり、英語という言語を共有して以前から太い紐帯(ちゅうたい)で結びつく国々だ。形成されつつある「中国VSファイブアイズ」という対立構図は、一時的なものなのか、それとも「ポストコロナ」の世界で新たな「冷戦」構造にまで発展するのだろうか。
香港住民に英市民権付与の道筋
前回のおさらいともなるが、最近の英中関係悪化の経緯について振り返りたい。
中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)は5月28日、香港の統制を強化する「国家安全法制」の新設を可決。これに対し、香港の旧宗主国である英国は、英中が返還後の香港に50年間保障することで合意した「1国2制度」を危うくするものと強く反発。ジョンソン英首相は6月3日付の英紙タイムズへの寄稿で、香港返還(1997年)以前に香港に居住していた人に発行した「英国海外市民」の旅券保持者と、同旅券の申請資格を持つ人を念頭に、英市民権の付与に向けた道筋を開く意向を表明した。同旅券の保持者は約35万人で、これ以外に、申請資格を有する人は約250万人いるとされており、英国が300万人近い香港市民を受け入れる方針と受け取られた。
そして6月30日、高度な自治や言論の自由が保障されてきた香港に、中国当局が直接介入して反政府活動を取り締まることが可能となる「香港国家安全維持法」(国安法)が成立・施行された。ジョンソン氏は翌7月1日、英議会で国安法について、1国2制度を認めた英中共同宣言への「明白で深刻な違反」と断言し、英国海外市民旅券保持者への英市民権付与の方向性に揺るぎがないことを強調。英外務省は、香港住民の受け入れ範囲を同旅券保持者とその扶養家族とし、人数の上限リミットなどを設けない意向を明らかにした。経済力の大きい香港からの人口流出を促すことで、中国政府を揺さぶる戦術とみられ、中国政府に対する対決姿勢を一層鮮明にした格好だ。
ファーウェイ排除を決めた英国
一方、ファーウェイを巡っても英国は大きく動いた。
ファーウェイ製品を通じた中国政府のスパイ活動やサイバー攻撃への警戒感から、米国は各国にファーウェイ製品の排除を要求してきたが、英政府は今年1月、次世代通信規格「5G」に関して、条件付きながらファーウェイ製品の使用を認めた。すでに現規格「4G」の基地局にファーウェイ機器が…
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