政治に柔軟対応能力(コンピタンス)や合理的議論が欠けている

田中均・日本総合研究所国際戦略研究所理事長
  • 文字
  • 印刷
田中均氏=根岸基弘撮影
田中均氏=根岸基弘撮影

 最近、国民の意識とはかけ離れた政府や政治家の言動が目につく。新型コロナウイルス感染拡大防止と経済回復を、難しいバランスの上で進めていかなければならないのはよくわかるが、感染が急速に再拡大している時に、人と人との接触につながる観光促進計画「Go Toトラベルキャンペーン」を前倒しで実施することをどう評価するのか。また、あれだけ反対の強かった「イージス・アショア」計画を突然に撤回し、瞬くうちに「敵基地攻撃能力」の議論を進めるのをどう受け止めればよいのか。この二つの事例から見えてくるのは、政治が環境変化に応じて柔軟に対応していく能力(コンピタンス)に欠ける一方、バランスが取れた合理的・科学的議論すら希薄になっていることだ。

 今年2月に「ダイヤモンド・プリンセス号」の集団感染があった時、米国の政府元高官はセミナーの席で「日本の問題処理はインコンピタンス(適応能力に欠ける)だということに尽きる」と述べた。米国人を含む乗客が十分な感染防止対策や退船の見通しなく船内に閉じ込められていたことをとらえたものだ。当時私は、新型コロナという未知の感染症なのだからやむを得ない面があると思ったが、その後、今日に至る政府の施策や行動ぶりを見て、本当にコンピタンスがないと思うようになった。あれから専門家の意見も聞かず唐突に学校閉鎖を行うとか、効能が全く分からない小型の布マスクを全世帯に配るなど極めて思いつき的…

この記事は有料記事です。

残り2480文字(全文3080文字)

田中均

日本総合研究所国際戦略研究所理事長

1947年生まれ。69年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官、在サンフランシスコ日本国総領事、経済局長、アジア大洋州局長を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、05年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、10年10月に(株)日本総合研究所国際戦略研究所理事長に就任。06年4月より18年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、19年)、『日本外交の挑戦』(角川新書、15年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、09年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、09年)など。