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<「普通の人」がなぜ過激化するのか>歪んだ正義(1)

大治朋子・編集委員(専門記者)
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SNS上で受けた誹謗中傷に関する提訴会見で、記者の質問に答える伊藤詩織さん=東京都中央区で2020年6月8日、北山夏帆撮影
SNS上で受けた誹謗中傷に関する提訴会見で、記者の質問に答える伊藤詩織さん=東京都中央区で2020年6月8日、北山夏帆撮影

 マスクをしていない人を激しく叱責する。政府の自粛要請下で地元以外のナンバーの車を傷つけたり時間を短縮して営業する店に嫌がらせをしたりする。中国人が経営する店やその関係者をSNS上で中傷する。

 新型コロナウイルス禍に現れたいわゆる「マスク警察」「自粛警察」現象は、人間の攻撃性を顕在化させた。

 「人を傷つける心―攻撃性の社会心理学」(サイエンス社)などの著書がある大渕憲一・東北大学名誉教授(社会心理学、現・放送大学宮城学習センター所長)によると、「災害や犯罪などによって社会不安が高まると、それに伴い人々の間で生じる不快感情が攻撃性に転化されやすくなる」という。

 もともと他の集団や民族に対して敵対的な、あるいはマイノリティーに対して差別的な態度を持っている人でも、冷静な時はそれを不合理なものとして自制することができる。ところが不安や恐怖が高まっている時には「認知資源の不足などからこうした抑制力が低下し、敵意や差別感情が噴き出しやすくなる」という。社会が不安定な時には敵意や差別感情を「正当化」する理由を見つけやすくなり、また周囲の人々からの支持が得られやす…

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大治朋子

編集委員(専門記者)

 1989年入社。サンデー毎日、社会部、ワシントン特派員、エルサレム特派員などを経て現職。英オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所客員研究員。2017年から2年間休職しイスラエル・ヘルツェリア(IDC)学際研究所大学院(テロ対策&国土安全保障論、サイバーセキュリティ専攻)修了、シンクタンク「国際テロリズム研究所」(ICT)研修生。テルアビブ大学大学院(危機・トラウマ学)修了。防衛庁(当時)による個人情報不正収集・使用に関する報道で02、03年度新聞協会賞受賞。ボーン・上田記念国際記者賞など受賞。単著に「勝てないアメリカー『対テロ戦争』の日常」(岩波新書)、「アメリカ・メディア・ウォーズジャーナリズムの現在地」(講談社現代新書)など。