バリアフリー化は経済的にネガティブか――。日本では、バリアフリーというと、福祉という視点が強い。お金をかけて「弱者」のために行う施策という認識を持っている人も多いだろう。しかし、バリアフリーは障害者だけの問題ではない。赤ちゃんのときはベビーカーを使い、年を取ればつえをついたり、移動のために車椅子を利用したりすることもあるだろう。高齢化が進む中、歩行などに支障をきたすリスクは大きくなる。バリアフリー化は多くの国民のためのものであり、「障害者」や「福祉」の観点ではなく、全ての人が利用できる「ユニバーサル」という考えの下、もっと大きな枠組みで見るべきだ。「移動の自由」は人間として生きる喜びを感じられるためには不可欠であり、その環境を整えることは社会生活のインフラなのだ。
私は25歳のときに事故で脊髄(せきずい)を損傷し車椅子生活となった。車椅子で駅に行くと、「前もって電話してもらえますか」と言われ、バスに乗ろうとしても「前もって電話していますか」と言われてしまう。「バスって電話予約しないと乗れないんだっけ?」などと驚いた。健常者だったときは普通に感じていたことが、車椅子の目線になると、こんなにも違うのだとショックを受けた。以前と比べて「バリアフリー化」は進んでいるが、「移動の自由」への取り組むべき課題は多い。
交通バリアフリー法(高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律)による基本方針では、今年度末までに1日平均3000人以上が利用する駅の段差を解消するという目標を掲げている。現在90.4%で達成しているという。ただ、都市部と地方で隔たりがある。東京近郊はほぼ100%に近いとされるが、地方では50%台。私の地元の岩手も53.8%にとどまる。さらに3000人未満の駅でいえば、バリアフリー化は、わずか22%にすぎない。
段差を解消するためには、エレベーターの設置など駅の改修が必要だ。また、車椅子の利用者の対応にはどうしても人手がいる。鉄道事業者やバス事業者にとっては、利用者が多い都市部は対応できても、採算がとれない地方などではサービスを停止したり、廃線を決めたりせざるをえなくなるというのは理解できる。だが…
この記事は有料記事です。
残り959文字(全文1890文字)