ふらっと東アジア

中国「千人計画」を一律に「スパイ作戦」扱いするリスク

米村耕一・中国総局長
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中国の名門大学には世界各地から人材が集められている。写真は清華大学=北京で2020年8月7日、米村耕一撮影
中国の名門大学には世界各地から人材が集められている。写真は清華大学=北京で2020年8月7日、米村耕一撮影

 中国が優れた科学者を世界各国から招致する事業「千人計画」に対し、昨年11月に米上院小委員会が「米国の研究成果を不当に奪っている」との報告を出して以来、厳しい目が注がれている。米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は7月7日のスピーチで、千人計画に応募した在米中国人科学者が、米企業や研究機関の機密資料や情報を持ち出したとする例を挙げ、「中国政府は科学者たちが米国の知的財産を秘密裏に持ち出すようそそのかしている」と批判した。だが、千人計画で招致されてきた中には、軍事や産業とは直結しない基礎研究分野の研究者も多い。「過度な批判は正常な学術交流を萎縮させる」との懸念は、米国内でも出ている。実際に千人計画で採用され、中国の名門大学で研究する複数の日本人研究者に実情を聞いた。

 千人計画は中国で2008年、国外で優秀な成果を出した高名な中国人研究者を呼び戻すことを主な目的として始まった。10年以降は、40歳以下の若手に向けた「青年千人計画」もスタート。選ばれると「青年」で数千万円、シニアの著名研究者中心の「千人計画」の場合は1億円程度の研究費が上乗せされる。米上院小委員会の報告書は、17年時点で7000人がプログラムに参加したとしている。

 報告書の内容は痛烈な批判だ。50年までに科学技術で世界トップを目指す中国が、米国の開かれた社会につけ込み、米国の研究成果を自国の経済、軍事利益のために不正に獲得していると指摘。さらに中国政府が千人計画で招致した研究者に対して、米国から知的財産を持ち出すことを約束させる契約書を作るよう促したケースや、米国内での研究内容をそのまま中国に移転する「シャドー(影の)研究室」を中国内に作った事案もあったと…

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米村耕一

中国総局長

1998年入社。政治部、中国総局(北京)、ソウル支局長、外信部副部長などを経て、2020年6月から中国総局長。著書に「北朝鮮・絶対秘密文書 体制を脅かす『悪党』たち」。