
「これで陽性だったら、ちょっと参るな……」。昼下がりの猛暑と湿気が憂鬱な気分を一層重くする。8月13日午後、私は東京都心のある医療機関を訪れていた。新型コロナウイルスの有料PCR検査を受けるためだ。約束の時間より早めに待合室へ入ると、ぽつぽつと席が埋まっている。順番を待って診察室に通され、プラスチック製の試験管のような容器と薄いゴム手袋を看護師の女性に渡された。
「この線まで唾液を入れてくださいね。採取できたら呼んでください」。レモン、梅干し、ステーキ。よだれがこみ上げる食べ物を想像しながら、5分ほどかけて必要量の唾液をためる。容器を渡すと、「お疲れ様でした。では、明日午後6時半に来てください」と一言。運命を左右する結果はいかに――。
毎日新聞カイロ特派員の私は、コロナ感染拡大を受けて、医療事情の悪いエジプトから4月中旬に日本へ一時退避した。東京の社員寮や民泊で仮住まいしながら、中東のニュースチェックや記事執筆、本社での編集作業といった仕事をこなす日々が続いた。じっと待つこと数カ月。エジプトの感染拡大はひとまず落ち着き、7月からは国際航路も再開したため、8月中旬に帰任すると決めた。コロナ禍における海外渡航とはいかなるものか。体験を報告したい。
手間ひまかかるコロナ禍での海外渡航
帰任を決めたものの、日本からエジプトへの直行便は現在飛んでいない。では、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイを経由するエミレーツ航空便にしよう。その場合、UAEの規定で「搭乗前96時間以内」のPCR検査によるコロナ陰性証明書が必要だ。8月15日の飛行機を予約し、海外渡航者向けの検査を行っている東京都内の大学病院に予約を入れた。8月12日に検査を受ければ翌々日の14日に結果を受け取れる。15日夜の出発から逆算すれば大丈夫だ。
そう思っていた私の考えは甘かった。8月6日、エジプト政府は「15日から、外…
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