近く、遠く

K-POP 勝因の一端「センイル広告」

日下部元美・外信部記者
  • 文字
  • 印刷
カップホルダーを利用したセンイル広告=ソウルで2020年9月2日、日下部元美撮影
カップホルダーを利用したセンイル広告=ソウルで2020年9月2日、日下部元美撮影

 6月のある日、ソウル市内のカフェでタピオカミルクティーを買うと、韓国のアイドルの写真が印刷された紙のカップホルダーが一緒についてきた。「カフェのカップホルダーにまでアイドルの写真が載っているのか。韓国らしいな」と思いながらよく見ると、下部に小さく「HORANGDAN JAPAN」と刻まれている。ここは韓国なのになぜ「JAPAN」なのだろうか? この疑問を解こうと取材を進めてみると、K-POPが世界を席巻する要因の一端が見えてきた。

 このカップホルダーは、アイドルらの誕生日や記念日に合わせ、ファンが自主的にお金を集めて祝う「応援広告」と呼ばれる形態の一つだった。大きく分けて▽誕生日▽グループの結成周年記念▽イベント告知――の三つがある。このうち、韓国語で誕生日を意味する「センイル」に合わせた広告は「センイル広告」と呼ばれ、文字通り誕生日に合わせて出す。

 大きくプリントしたアイドルの写真と色鮮やかなデザインとは対照的に、刻まれているのは誕生日の日付やお祝いの言葉などごくシンプルなものだ。地下鉄駅構内やバスのラッピング、商業施設のビジョンなどを利用した大型広告もある。ソウル市内を歩けば至るところで目にする。

 どれも優れた広告なのでアイドルの所属事務所によるものかと思いきや、資金集めやデザインなど全てファンが自主的にやっているというから驚きだ。K-POPファンや広告代行会社などによると、仕組みはこのようなものだ。

 誕生日や記念日が近づくと、まず私設ファンクラブや「マスター」と呼ばれる韓国アイドルの写真を撮る熱心なファンがツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上で広告企画を発表する。資金集めは、スマートフォン決済のカカオペイなどの送金アプリを使用する。通常1口1000~2000円程度で、金額は本人次第という場合が多いという。ここまではファンが自主的に行い、…

この記事は有料記事です。

残り4251文字(全文5051文字)

日下部元美

外信部記者

1991年東京都生まれ。2014年入社。北海道報道部を経て、2019年5月から現職。2020年6月から韓国・ソウルに語学留学中。現在に至るまで担務の傍ら性的少数者(LGBTなど)や障害者など社会的マイノリティの取材を続け、旧優生保護法下の障害者らに対する強制不妊手術問題を扱ったキャンペーン報道『旧優生保護法を問う』の取材班に参加した。好きな物は映画と漫画。Twitter @MoKusakabe