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<ネットで陥る思考の暴走と「デジタルディスタンス」>歪んだ正義 番外編

大治朋子・編集委員(専門記者)
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コロナ禍でソーシャルディスタンス(社会的距離)が求められるなか、インターネット上での交流や情報収集が活発化している。だが仮想空間でも一定の距離(ディスタンス)を保つ必要がありそうだ。
コロナ禍でソーシャルディスタンス(社会的距離)が求められるなか、インターネット上での交流や情報収集が活発化している。だが仮想空間でも一定の距離(ディスタンス)を保つ必要がありそうだ。

 コロナ禍の社会ではソーシャルディスタンス(社会的距離)が求められ、より多くの人と出会ったり直接交流したりする機会が失われつつある。デジタル上の交流がそれを補うが、危うい落とし穴もある。オンライン中心の情報収集やコミュニケーションは私たちの思考を先鋭化させる可能性もあるからだ。仮想空間に氾濫するデジタル情報との程よい距離感、いわば「デジタルディスタンス」(私の造語です)について考える。

「粘着質」の動画はもうかる

 2018年2月、米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が一本の記事を掲載し世界的な話題を呼んだ。「いかにユーチューブは人々をインターネットの最も暗い闇へといざなうのか」。ユーチューブが推薦する動画の傾向について詳しく調べた調査報道だ。

 WSJ紙が伝えたユーチューブ元技術者らの証言によると、同社は00年代から、視聴者が少しでも長くサイトにとどまるように推薦動画をできるだけ「粘着性」の高いもの、つまり次から次へと見てしまうようにアルゴリズム(計算方法)を設定していたという。

 具体的には、別のサイトなどですでに多くの視聴を稼いでいる動画を推薦するようにプログラムしていたといい、多くの場合、センセーショナルで過激な内容の動画を推薦することにつながった。見た人がさらに強い刺激を求めて次の推薦動画をクリック(閲覧)する可能性が高まり、動画の中に埋め込まれている広告を見る時間も長くなるため、より多くの収入が得られるという。

 WSJ紙が問題を指摘したのは17年10月1日に米ネバダ州ラスベガスのイベント会場で起きた銃乱射事件に関する動画。白人の男が無差別に発砲し58人が死亡した事件だが、その2日後、同紙の記者がユーチューブにログインしない状態で事件の関連動画を「las vegas shooting」をキーワードにして検索したところ、5番目に挙がったのは米政府が黒幕だといった根拠不明の陰謀説を含んだものだった。他にも「ローマ教皇」と入力すると暗殺や謀略説を唱える動画が提示されるなどした。

 同紙は「ユーチューブが視聴者を、謀略論や狂信的な視点、誤解を招く動画を提供するチャンネルへと導いている」と指摘した。これに対しユーチューブ側は上記事件が起きた時期に近い17年秋からニュースフィード(配信)などのアルゴリズムを調整していると説明したが、WSJ紙は、その後も同じような問題が見られたとしている。

 この報道はニューヨーク・タイムズ紙なども追随して話題になり、大規模な学術的調査につながった。スイス人やブラジル人らの研究グループは19年5月から7月にかけて、349のユーチューブのチャンネルに掲示されていた33万本余りの動画を「どれぐらい右派傾向か」で四つのレベルに分類して視聴者の動向を調べた。彼らが19年8月に公表した論文「ユーチューブにおける過激化への道の検証」に…

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大治朋子

編集委員(専門記者)

 1989年入社。サンデー毎日、社会部、ワシントン特派員、エルサレム特派員などを経て現職。英オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所客員研究員。2017年から2年間休職しイスラエル・ヘルツェリア(IDC)学際研究所大学院(テロ対策&国土安全保障論、サイバーセキュリティ専攻)修了、シンクタンク「国際テロリズム研究所」(ICT)研修生。テルアビブ大学大学院(危機・トラウマ学)修了。防衛庁(当時)による個人情報不正収集・使用に関する報道で02、03年度新聞協会賞受賞。ボーン・上田記念国際記者賞など受賞。単著に「勝てないアメリカー『対テロ戦争』の日常」(岩波新書)、「アメリカ・メディア・ウォーズジャーナリズムの現在地」(講談社現代新書)など。