ウェストエンドから

極右過激派台頭という欧州の新たな危機

服部正法・欧州総局長
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テロ事件の現場となった「アルノールモスク」の前に集まったメッセージの書かれた石=ニュージーランド・クライストチャーチで2019年8月14日、藤井達也撮影
テロ事件の現場となった「アルノールモスク」の前に集まったメッセージの書かれた石=ニュージーランド・クライストチャーチで2019年8月14日、藤井達也撮影

 大規模な無差別テロ事件が相次いで発生してきた欧州では近年、各国の治安当局がテロ予防に特に労力を傾注してきた。一般的に強い印象を残したテロは、過激派組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織「アルカイダ」など、イスラム過激派やそれらに感化された者が引き起こしたものだが、白人至上主義やネオナチ的思想を背景にした極右過激派のテロが近年増加し、地域的にも拡散している。極右過激派の動きと背景を探った。

増える極右過激派のテロ

 私は2012年から4年間、ヨハネスブルク特派員としてサブサハラ(サハラ砂漠以南)のアフリカ49カ国を担当し、この間、アフリカ大陸でテロや紛争を激化させるイスラム過激派の取材に力を入れてきた。このため、19年4月に世界の安全保障情報が集約されるロンドン駐在になると、すぐに当地のテロ専門家らに話を聞きに行った。もちろん彼らはイスラム過激派の最新の状況に関して知見を積み重ねているわけだが、ある専門家が私に「これからの問題はむしろこっちかも」と指し示してくれたのが、極右過激派の動向だった。

 テロ攻撃情報の集約などで定評のあるオーストラリアのシンクタンク「経済平和研究所」が19年に発表したまとめによると、テロによる世界の犠牲者は14年をピークとして、以降4年連続で減少した。これはISなどの弱体化が原因とみられている。ところが、欧米など19カ国における極右過激派によるテロの発生件数に限ると、過去5年で4.2倍に増えた。

 近年の極右テロというとまず、11年7月にノルウェーで与党(当時)・労働党の青年部集会が銃の乱射攻撃を受けるなどして77人が死亡した事件を記憶にとどめている人もいるのではないか。殺人などの罪で禁錮21年の刑が確定したアンネシュ・ブレイビク服役囚は、イスラム系移民や多文化主義から国を守るための「自衛」だと犯行を正当化、移民を受け入れてきた与党を「裏切り者」と見なしていたとされる。

 19年3月にニュージーランドのクライストチャーチのモスク(イスラム礼拝所)が襲撃されたテロは記憶に新しいだろう。銃乱射により51人が死亡し、ニュージーランドの裁判所は20年8月、オーストラリア人のブレントン・タラント被告に仮釈放なしの終身刑を言い渡した。タラント被告も移民を嫌悪していたことが知られている。

 19年8月には、米南部テキサス州エルパソで、男が銃を乱射し22人が死亡。男は中南米系移民を標的にした。また、20年2月にはドイツ西部ハーナウで、トルコ系移民ら9人が人種差別主義者の男に射殺された。

 あまり目立たないが、私の暮らす英国でも極右による攻撃は警戒されている。

 世界に衝撃を与えたのは、16年6月の欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の直前、白人至上主義に感化された男がEU残留派の野党・労働党所属の女性下院議員、ジョー・コックス氏(当時41歳)を銃撃したう…

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服部正法

欧州総局長

1970年生まれ。99年、毎日新聞入社。奈良支局、大阪社会部、大津支局などを経て、2012年4月~16年3月、ヨハネスブルク支局長、アフリカ特派員として49カ国を担当する。19年4月から現職。著書に「ジハード大陸:テロ最前線のアフリカを行く」(白水社)。