金正恩委員長「委任統治論」の矛盾

坂井隆・北朝鮮問題研究家
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黄海北道銀波郡大青里一帯の水害復旧建設を視察する金正恩朝鮮労働党委員長。日時は不明。朝鮮中央通信が2020年9月12日報じた=朝鮮中央通信・朝鮮通信
黄海北道銀波郡大青里一帯の水害復旧建設を視察する金正恩朝鮮労働党委員長。日時は不明。朝鮮中央通信が2020年9月12日報じた=朝鮮中央通信・朝鮮通信

 最近、北朝鮮政治のさまざまな側面で、これまでとは異なる現象が起きている。その意味を検討したい。

 特徴的な動向の第一は、朝鮮労働党関係の会議がこれまでとは比較できないほどの頻度で開催、あるいは報道されていることだ。7月以降9月中旬までの間、中央委員会政治局会議が4回(17回)、これまで開催事実さえ報道されたことのない同政務局会議が3回(6回)、中央軍事委員会会議が2回(6回)開催されている。カッコ内に示した第7回大会(2016年5月開催)以降の全回数と比較すれば、その頻度の高さは明らかだ。

 このほか、8月に開催された中央委員会全員会議では、来年1月の第8回大会の招集を決定した。前回大会以来4年半ぶりの開催となり、同大会が第6回大会(1980年開催)以来36年ぶりであったことを勘案すると、異例の頻度での招集だといえる。

 第二は、高位幹部の動向報道において、これまで党及び最高指導者にしか用いられなかった「指導」との表現が用いられたことだ。その最初の例は、9月1日付の党機関紙「労働新聞」が李炳哲、朴奉珠両氏及びその他6人の党副委員長が、それぞれ台風被害の復旧作業を「指導」したと報道したことだ。さらに9月5日の同紙は、「党の方針執行を怠り台風9号による人命被害を発生させた元山市と江原道幹部の無責任な態度から教訓を得るための会議」(3日開催)を金才竜党副委員長が「指導」したと報じた。同会議には、同人以外の党副委員長や組織指導部、宣伝扇動部幹部が参加したほか、全国の地方幹部が「画像」で参加していたという。この種の会議を一副委員長が「指導した」と表現するのは、従前の北朝鮮政治の常識ではありえないことだ。

 そして、以上のような「異例」の先例となるのが、6月の対韓非難キャンペーンでの金正恩委員長の実妹・金与正氏にかかわる動きである。その典型的な例は、同人が「党中央委員会第1副部長」の肩書で発…

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坂井隆

北朝鮮問題研究家

1951年生まれ。78年公安調査庁入庁、北朝鮮関係の情報分析などに従事、本庁調査第二部長を最後に2012年退官。その後も朝鮮人民軍内部資料の分析など北朝鮮研究を継続。共編著書に「独裁国家・北朝鮮の実像」(2017年、朝日新聞出版)、「資料 北朝鮮研究Ⅰ 政治・思想」(1998年、慶応義塾大学出版会)など