麗しの島から

香港の教育現場で進む「検閲」と締め付け

福岡静哉・台北特派員
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校舎の周囲で抗議活動を展開する高校生ら。2019年の抗議デモは若者が大きな役割を果たした=香港で2019年9月9日、福岡静哉撮影
校舎の周囲で抗議活動を展開する高校生ら。2019年の抗議デモは若者が大きな役割を果たした=香港で2019年9月9日、福岡静哉撮影

 学生らによる政府への抗議活動が活発な香港で、若者たちの批判精神を養ったと言われる教育科目がある。社会問題を幅広く学び、多角的に思考する力を養う「通識教育」(英語名・リベラルスタディーズ)と呼ばれる高校の必修科目だ。「通識」は「一般教養」の意味に近い。日本の高校で言えば「公民」に似ているが、生徒同士の討論を重視する点が大きく異なる。親中派勢力は、こうした教育が「政府に反抗する若者を生んだ」と問題視している。

 政府への抗議活動が起きた2019年、教育当局は通識教育の教科書を審査する事実上の「検閲」制度を導入した。教科書からデモや民主化運動に関する記述や写真が大幅に削除されたのだ。

 さらに20年6月に施行された国家安全維持法(国安法)が教育現場に影を落とす。どのような言動が国安法違反に当たるのかは当局側に決定権があり、民主化運動や抗議活動について授業で議論することすら「国安法違反」と言われる可能性があるためだ。教育現場には萎縮ムードが漂う。

 そんな中、当局の締め付け強化に限界を感じ、通識教育の教師を続けることを断念した男性に、香港の教育現場で何が起きているのかを聞いた。

通識教育が生んだ新世代

 香港中心部・九竜地区に住む楊子俊さん(30)さんは、7月1日まで約8年にわたり高校で通識教育を担当していた。9月上旬に楊さんの自宅を訪ねると、まずこう切り出した。

 「この試験問題を見てもらうと、通識教育のイメージがわくと思います」。高校生が卒業時に受験する学力試験(DSE)で出された通識教育の試験問題(16年版)だった。日本人にはイメージしにくい通識教育について、分かりやすく伝えようと見せてくれたものだった。DSEは香港版の大学入試センター試験といったところで、大学受験の合否を決める基準となる。問題文にはこうある。

 「民…

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福岡静哉

台北特派員

1978年和歌山県生まれ。2001年入社。久留米支局、鹿児島支局、政治部などを経て2017年4月、台北に赴任した。香港、マカオのニュースもカバーする。