安倍前首相は「ヒットメーカー」 選挙に強い現実主義者

脇雅史・元自民党参院幹事長
  • 文字
  • 印刷
脇雅史氏=野原大輔撮影
脇雅史氏=野原大輔撮影

 安倍晋三前首相が長期政権を築くことができたのは、選挙が非常に強かったことが大きい。国政選挙6戦6勝。国民の人気が高かった小泉政権ですら国政選挙は4戦2勝2敗だ。これだけでも政治家として極めて優秀といえる。では、どうしてここまで選挙に強いのか。それは、安倍氏が徹底した現実主義者だからだ。

 安倍氏は、そのときの時流に乗ってキャッチーな政策の打ち出し方をした。「女性活躍」「地方創生」「1億総活躍」「働き方改革」「人生100年時代構想」などと毎年のように看板を掛け替え、「やってる感」を出し、国民の支持を得た。どのように打ち出せば国民に響くか、世論の雰囲気をつかむのが上手だったのだろう。世の中の流れに乗ってヒット曲を作る「ヒットメーカー」と同じだ。

 旧民主党政権について繰り返し「悪夢」と発言したり、秋葉原で「あのようの人たちに負けるわけにはいかない」と演説したりして「3割」に徹底的に嫌われようとも、「残りが来ればいい」という割り切りもあっただろう。

 もちろん、都合のいいことだけ言っても見透かされる。実際に幼保無償化などの政策も進んだ。だが、目標だった「2%のインフレ目標」「希望出生率1.8」などは達成に遠く及ばない状態が続き、いつのまにか喧伝(けんでん)しなくなってしまった。政策停滞を感じさせないようにする新しい打ち出し方と現実的な具体策との案配がよかったということだろう。

 現実主義的な側面は、安倍氏の宿願であったはずの憲法改正でも色濃く出た。自民党の党是は、世界に誇れる日本の理念を打ち出して戦後占領下で作られた憲法を見直すことだ。そのために2012年には自民党の憲法草案も作った。

 憲法改正は理念に基づいて改正していかなければならない。だが、これには時間が相当にかかり、現実的ではないと判断したのだろう、まずは96条の改憲の国会発議の要件を「3分の2以上の賛成」から「2分の1」に引き下げる改正を目指した。それが批判されるとすぐに引っ込め、その後、「9条の2」を新設して自衛隊を明記するなどの改憲4項目を党として打ち出した。

 まるで草案のことは忘れてしまったかのようだ。しかも、公明党の理解を得るため「自衛隊の任務や権限は変わらない」としており、何のために憲法改正を進めるのか理解できない。結局、憲法を改正すること自体が目的になってしまったのではないか。

 憲法は理念の塊であり、理念に基づかない改正は意味がない。政治は、理念や理想ばかり言って現実が動かなければ意味はないが、あまりに現実にこだわりすぎて理念や理想を失ってもいけない。第二次大戦の敗戦により失ってしまった、それまでの理念に代わる新たな日本国の理念を確立しなければならない。

 さらに政権が長期化することで政権の維持が現実的な目的となってしまった。国会では、言葉を大事にしない傾向が目立ち、その場その場の追及をかわすため、答弁が変遷。検察官の定年延長問題に関し法解釈の変更を突然、言い出したことなどはその典型だろう。

 閣僚の不祥事で…

この記事は有料記事です。

残り536文字(全文1790文字)

脇雅史

元自民党参院幹事長

 1945年生まれ。旧建設省近畿地方建設局長などを経て、98年参院選の比例代表で初当選。党参院国対委員長、党参院幹事長などを歴任。当選3回。2016年参院選に出馬せず、政界を引退。