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朝鮮戦争参戦70周年を重視する習主席の思惑

米村耕一・中国総局長
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朝鮮戦争の激戦地の様子を再現した紀念館の展示=米村耕一撮影
朝鮮戦争の激戦地の様子を再現した紀念館の展示=米村耕一撮影

 北朝鮮との国境の町である中国・丹東市。その市街地と北朝鮮北部・新義州までを見下ろす小高い山の上に、中国軍の朝鮮戦争参戦を記念する博物館「抗美援朝紀念館」が立つ。「抗美援朝」とは米国(=美)に抵抗し、北朝鮮を支援したとことを意味する。9月19日に敷地面積を5倍に拡張する工事を終え、6年ぶりに再オープンした。

 今年10月19日は中国軍が参戦してちょうど70周年の節目で、紀念館オープンを皮切りに中国各地で記念行事や展示が予定されている。中国共産党は参戦した軍人らに記念メダルを授与すると決め、国営新華社は10月に入って連日、70周年関連の記事を配信中だ。香港紙によると、習近平国家主席は10月25日に北京市内で予定されている記念行事に出席する可能性がある。実現すれば、中国の指導者として出るのは、50周年当時の江沢民元国家主席以来、2人目だという。

 習氏の参戦70周年に対する重視ぶりがうかがえる。

中国独特の朝鮮戦争史観

 そもそも、6年前に「抗美援朝紀念館」の大規模拡張を決めたのも習政権だ。10月上旬、中国各地から多くの観光客が詰めかける紀念館をたずねると、朝鮮戦争の展開や激戦地、北朝鮮復興への貢献を紹介する展示の合間の壁面のあちこちに、習氏の言葉が刻み込まれていた。

 「まさに全国各民族・各人民の強力な支援によってこそ、共通の敵への怒りで団結することができ、あらゆる困難と強大で無尽蔵の力を持つ敵に打ち勝ち、戦争での勝利を手にすることができた」

 「中国人民は中朝両国の人民の血によって固めた友情、朝鮮政府と人民が(中国から参戦した)志願軍に示した積極的な支援といたわりの感動的な情景を終始、忘れない」

 「(戦死者たちについて)彼らは中華民族の男女の英雄との名に恥じず、祖国安全と世界平和の守り手の名に恥じず、『最も愛すべき人』との称号に値する」

 習氏の言葉をつなげてしまえば、貧しく弱かった中国が全国民による団結の力と人民の英雄的な働きによって強大な米国に勝ち、北朝鮮との深い絆を結んだというストーリーとなる。これは、展示でも繰り返し強調される。

 展示エリアに入り、最初に目に飛び込んでくるのは、壁面に大きく赤字で書かれた「中国60.6万トン」、「米国8772万トン」との数字だ。1950年当時の鉄鋼生産量で中国が、米国の100分の1以下だったことを指摘し、当時の中国の貧しさ、工業力の弱さと、米国の強さ、豊かさの落差を強調する狙いだ。

 一方で、朝鮮戦争が北朝鮮側の南への侵攻によって始まったことに関する記述はなく、むしろ中国にとって自衛戦争だったとの主張が続く。

 紀念館の展示で展開…

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米村耕一

中国総局長

1998年入社。政治部、中国総局(北京)、ソウル支局長、外信部副部長などを経て、2020年6月から中国総局長。著書に「北朝鮮・絶対秘密文書 体制を脅かす『悪党』たち」。