学術会議任命拒否は民主主義の危機

古賀伸明・前連合会長
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古賀伸明氏=内藤絵美撮影
古賀伸明氏=内藤絵美撮影

 彼自身もこれだけ大きな騒ぎになるとは思わなかったのではないだろうか。新しくスタートした内閣が高支持率だったため、少し甘く見すぎたのではあるまいか。

 今月1日、菅義偉首相は日本学術会議の新会員(105人)のうち、同会議が推薦した候補者6人を任命拒否したことが明らかになった。いずれも人文・社会科学系の科学者である。

 2012年に誕生した第2次安倍政権は、人事を通じて霞が関をコントロールし、官僚の萎縮のみならず忖度(そんたく)をはびこらせ倫理感をも崩壊させた。安倍政権の権力の源泉の大きな要素は人事を掌握することだった。この具体的指揮を執ってきたのが当時官房長官の菅首相である。今回の件も、人事権を握ることによって異論を排除するという手法の延長線上にあると言っても過言ではない。

 日本学術会議は1949年に設立されて以降、会員選出方法を全国の研究者による選挙制度、学会などからの推薦制度を経て、現会員が新会員を選ぶ現制度に至っている。

 学術会議会員は政権の裁量で任命する政治任用ポストではなく、行政組織の人事に比べて独自性や中立性がより求められる。したがって、83年の国会では「推薦に基づいて総理大臣が任命する」とは、「実質的に首相の任命で会員の任命を左右することは考えていない」とする解釈を示し、「任命」というものは、あくまで形式的なものと述べていた。

 しかし、18年、内閣府が内閣法制局に「必ず任命する義務はない」とする文書を確認していたのだ。政府は「解釈変更ではない」と説明するが、「形式的な任命」から「実質的な任命」への事実上の解釈変更である。しかも、この文書は国会での議論も経ず、国会にも報告されていない。

 過去の国会答弁との関係も含め、政府の一存で決めていいものではないはずだ。国会が有する立法権の侵害である。しかも、その2年前の16年に、当時の安倍晋三内閣が欠員補充のための候補者3人のうち2人を排除しようとしたことも明るみに出ている。

 菅首相の「任命する責任は首相にあり、推薦された方々をそのまま任命する前例を踏襲して良いのか考えてきた」という言葉の背景には、この18年の文書があったからだ。また、「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動をする観点から、今回の任命についても判断した」といった抽象的な基準を何度も持ち出しての任命除外は、恣意(しい)的な権力行使以外のなにものでもない。首相は105人…

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古賀伸明

前連合会長

1952年生まれ。松下電器産業(現パナソニック)労組中央執行委員長を経て、2002年電機連合中央執行委員長、05年連合事務局長。09年から15年まで第6代連合会長を務めた。現在は連合総研理事長。