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気候危機とグレタと資本主義 若き経済思想家が説く新しい「脱成長」論

八田浩輔・外信部記者
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中国中部にある石炭処理工場。脱化石燃料社会の早期実現は地球規模の課題だ=2019年11月、AP
中国中部にある石炭処理工場。脱化石燃料社会の早期実現は地球規模の課題だ=2019年11月、AP

 問題は「行き過ぎた資本主義」ではなく、資本主義システムそのものだ――。人類が直面する気候危機の克服に向けた道筋を描いた斎藤幸平さん(33)=大阪市立大准教授=の新著、「人新世の『資本論』」(集英社新書)が売れている。脱炭素化と経済成長の両立は「幻想」だと言い切る経済思想家は、危機を解決する最善の道として新しい「脱成長」論を提示する。17歳のスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんや彼女を支持する若者世代とも共鳴するこのビジョンについて、欧州で気候ストライキの現場を歩いてきた記者が聞く。

「緑の成長」は「幻想」なのか

 ――新型コロナウイルスで打撃を受けた経済の再生と気候変動問題の両立を目指す「グリーン・リカバリー」(緑の復興)の動きが欧州を中心に広がっています。しかし、新刊では持続可能な社会への移行をビジネスチャンスとみなす「緑の経済成長」戦略について批判の対象にされています。なぜですか。

 ◆経済成長を続ければ技術が発展し、イノベーションが促進され、魔法のような技術が現れて、私たちは自らの生活を特段大きく変えることなく、あらゆる問題を解決できる――。それは幻想です。

 気候変動を安全と思われる許容範囲にとどめるには、世界の二酸化炭素の排出量を2030年までに半分にして、50年までには実質ゼロにしなければいけません。今までの経済成長が化石燃料に依存してきたことを考えれば、あと数十年ほどで、経済成長を続けながら二酸化炭素排出の絶対量を減らす「デカップリング」(切り離し)が十分に実現できるとは思えません。

 まず、私たちが認識を改めなくてはならないのは、「緑の経済成長」路線の背景にあるケインズ主義的な発想(※1)が有効な時代は過ぎ、「人新世」とも呼ばれる環境危機の時代に突入しているということです。「人新世」とは、地球全体を人類の経済活動の痕跡が覆っている時代として地質学的に提唱されている年代のことです。人類の環境への影響が大きくなるにつれて、ますますコントロール不能な事態が生まれつつある。気候危機はその逆説の典型例です。

 ところが、「緑の経済成長」路線は、この問題を、さらなる地球への介入によって乗り越えようとする。それは、「人新世」の危機の深刻さを見えなくするイデオロギー的な危うさがあるのではないかと私は考えます。未来の技術さえあれば、今まで通りのやり方で気候危機も解決できると考えてしまうことで、本質的なアクションが遅れ、危機はますます深まるでしょう。

 現実には、…

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八田浩輔

外信部記者

科学環境部、ブリュッセル特派員を経て20年8月から外信部。欧州時事や気候変動をめぐる政治・社会の動きをウォッチしています。科学ジャーナリスト賞、日本医学ジャーナリスト協会賞を受賞(ともに13年)。共著に「偽りの薬」(新潮文庫)。