韓流パラダイム

BTSアーミーの視点で見た 株式上場巡る激動の1週間

堀山明子・ソウル支局長
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11日に開かれたBTSのオンラインコンサート=ソウル市内(ビッグヒットエンターテインメント提供・共同)
11日に開かれたBTSのオンラインコンサート=ソウル市内(ビッグヒットエンターテインメント提供・共同)

 ジェットコースターのように市場の期待と失望が急速にアップダウンした。韓国男性7人の音楽グループ「BTS(防弾少年団)」の所属事務所「ビッグヒットエンターテインメント」が10月15日、韓国取引所に株式を上場した。初日は一時、ストップ高まで相場が過熱したが、その後は値下がりを続け、1週間後にはピーク時のほぼ半値になった。

 BTSは2018年から1年2カ月にわたり14カ国で行われた世界ツアーで200万人以上の観客を動員した世界的なアーティスト。ファンクラブの名前にちなんで「Army(アーミー)」と呼ばれるファンは、文字通り軍隊のようにBTSを守ろうとし、時には所属事務所の商業主義を批判した。00年代前半に活躍した女性歌手BoAの歌を口ずさんだ韓流第1世代の記者が、第3世代を代表するBTSのアーミーの視点と、上場前後の激動の1週間を追った。

ストップ高は15分で崩壊

 「革新的な事業モデルを発掘し、グローバル市場で成長していく」。韓国取引所で行われた15日の上場式でビッグヒットの房時赫(パン・シヒョク)代表は会社の未来像をこう力説し、スタートを合図する太鼓を打ち鳴らした。

 午前9時、公募価格=1株13万5000ウォン(約1万2000円)の2倍の初値で始まり、一気に35万1000ウォン(約3万2000円)のストップ高まで急騰。しかし、わずか15分後に値は崩れ、初日は25万8000ウォン(約2万4000円)で取引を終えた。韓国メディアの上場前の報道では「ストップ高が何日続くか」と注目されていたが、フタを開けてみれば1日も維持できなかった。21日現在、18万ウォン(約1万7000円)を割り込む値で推移しており、上場直後に比べ48%以上の下落だ。

 その一因は機関投資家にあるとの見方もある。韓国の証券アナリストによると、機関投資家が上場直後に売り逃げることは、ある程度予想できていたという。ビッグヒットは全体の公募物量(713万株)の60%を機関投資家に割り当てており、その約2割については、一定期間は株を売らないという「義務保有確約」がなかった。

 さらに1カ月後には約31%、3カ月後には約18%、6カ月には約25%の株が義務保有期間を終える。韓国政府が不動産投機への規制を強化する中、投資家は行き場を失ったマネーを上場株の価格上昇を見込んで市場につぎ込んでおり、確約期間を過ぎれば売り注文が続く可能性が高い。上場前に公募価格で購入できた一般投資家はまだ損をしていないが、場外で高く買ったり、BTSグッズを買う感覚で上場後に参入したりしたアーミーは、機関投資家が株を大量放出する度に株価が下落する局面に心を痛めることになりそうだ。

 韓国取引所から徒歩5分。BTS好きの社長が経営するトックポッキ(お餅料理)専門店「五楽」を訪れた。BTSのポスターが壁や天井までギッシリ。アーミーから「聖地」とあがめられている名店だが、意外にも、株式上場に関する張り紙やメッセージは何もなかった。

 女性スタッフは「お客さんとの間では冗談で『株買ったか』って話題にはなるけど、本当に買ったという人見たことないわ。高すぎよ」と笑う。真っ赤なトウガラシ色のラーメンを食べていた20代女性社員は「ビッグヒットが抱える代表的なアーティストがBTSしかいないから上場でBTSが注目されるのは仕方ないけど、会社と命運を共にするかのように見られて気の毒。投資家の意向と関係なく音楽活動してほしい」と複雑な心境を語った。

750万人が登場する交流サイトでは

 アーミーたちがどんな思いで株式上場を見ているか、もっと知りたい。ビッグヒットの子会社が運営するKポップのファンコミュニティー専用アプリ「Weverse(ウィーバス)」から、BTSのサイトに登録してみた。日ごろからBTSの音楽映像は見聞きしていたが、ファンコミュニティーに入るのは初めてだ。

 登録者数は750…

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堀山明子

ソウル支局長

1967年生まれ。91年入社。静岡支局、夕刊編集部、政治部などを経て2004年4月からソウル支局特派員。北朝鮮核問題を巡る6カ国協議などを取材した。11年5月からロサンゼルス特派員。18年4月から現職。