新型ミサイルを誇示した北朝鮮の未完の課題

坂井隆・北朝鮮問題研究家
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平壌で行われた軍事パレードに登場した新型潜水艦発射弾道ミサイルとみられる兵器=北朝鮮・平壌で2020年10月10日(コリアメディア提供・共同)
平壌で行われた軍事パレードに登場した新型潜水艦発射弾道ミサイルとみられる兵器=北朝鮮・平壌で2020年10月10日(コリアメディア提供・共同)

 北朝鮮は10月10日、朝鮮労働党創建75周年記念の閲兵式を実施し、各種の新型兵器などを登場させた。しかし、閲兵式での金正恩党委員長の演説は、軍備充実とは対照的な経済分野の不振を改めて印象付けるものでもあった。

内外に印象付けたミサイル開発進展

 閲兵式で最大の脚光を浴びたのは、潜水艦発射型と地上発射型の新型大陸間弾道弾だった。これが金委員長が昨年末に「遠からず保有」を予告した「新たな戦略武器」であったことはいうまでない。

 ただし、これらの兵器を率いていたのが国防科学院長、党軍需工業部副部長と目される人物であったことは、それらがいまだに開発段階にあることを示しているとも考えられる。

 また、昨年来発射実験を繰り返してきた短距離ミサイル(2種類)及び「超大型放射砲」(3種類)も初めて姿を現した。これらは、いずれも通常弾頭を装着して韓国本土のほぼ全域を打撃できるとされているだけに、韓国との紛争に際し実際に使用可能な兵器であり、その軍事的意義は、長距離ミサイルに劣らず重要だ。

通常兵器の近代化促進も示唆

 閲兵式では、また、戦車、装甲車、自走榴弾(りゅうだん)砲から小銃、ヘルメット、迷彩戦闘服に至るまで、さまざまな新兵器・装備が登場した。

 もちろん、これらの配備は特定の部隊に限られたものと推測されるが、少数兵力で任務遂行が可能な特殊戦部隊の装備充実は、その脅威のさらなる増大に直結する。ちなみに、閲兵式には6種類もの特殊戦部隊が登場している。

 また、「最高級軍事指揮官養成の中心基地」と称する「金正日軍政大学」及び「国防科学技術人材を輩出」と称する「金正恩国防大学」の存在が明らかにされた。これらの学校新設は、北朝鮮が軍の運用・作戦などのソフト面における改革にも取り組んでいることを示す。とりわけ前者の学生は陸・海・空軍の制服を着用した混成集団であり、高位指揮官養成において3軍の統合運用を重視していることがうかがえる。

経済では所期の成果を得られず

 金委員長は、閲兵式での演説で、軍事力整備の進展を誇る一方、「我が人民たちが生活上の困難から抜け出せないでいる」ことを認め、「本当に面目がない」など自責の言葉を繰り返した。北朝鮮経済については、その基本を定めた「国家経済発展5カ年戦略」(2016~20年)の目標達成が見込めないことが既に明らかにされている(8月、党中央委決定書)。

 振り返ると、北朝鮮は、金委員長主導の下、18年4月、核戦力の整備を背景に「全党、全国が社会主義経済建設に総力を集中する」との「戦略的路線」を打ち出していた。さらに言えば、それ以前の「並進路線」の策定(13年3月)に際しても、「新たな並進路線は、国防費を増やさずとも少ない費用で国の防衛力をさらに強化しながら、経済建設と人民生活向上に大きな力をまわ」し、「経済強国の建設を推し進めて人民生活を画期的に高める」との方針を示していた。金委員長の発言は、これらの路線が所期の成果をあげられずにいることを反映したものだといえる。

「80日…

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坂井隆

北朝鮮問題研究家

1951年生まれ。78年公安調査庁入庁、北朝鮮関係の情報分析などに従事、本庁調査第二部長を最後に2012年退官。その後も朝鮮人民軍内部資料の分析など北朝鮮研究を継続。共編著書に「独裁国家・北朝鮮の実像」(2017年、朝日新聞出版)、「資料 北朝鮮研究Ⅰ 政治・思想」(1998年、慶応義塾大学出版会)など