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ロヒンギャ料理で考える~台所編~ 味がつなぐアイデンティティー

石山絵歩・外信部記者
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ビリヤニで使用するハラル肉とスパイスや香草=2020年10月、石山絵歩撮影
ビリヤニで使用するハラル肉とスパイスや香草=2020年10月、石山絵歩撮影

 日本ではどこか遠くに感じられる難民問題を、食を通じて身近に――。10月中旬、私はひょんなことから、日本に住むロヒンギャ民族に家庭料理を学ぶというオンライン教室に参加することになった。カレースパイスなどで味付けしたちょっぴり辛い炊き込みご飯「ビリヤニ」の調理方法を学びながら、味がもたらすアイデンティティーという壮大なテーマについて台所で考えた。

ロヒンギャの味を求めて……

 まず、ロヒンギャについて少し説明したい。ロヒンギャとは、ミャンマー西部ラカイン州でイスラム教を信仰する少数民族だ。ミャンマー政府からは「ベンガル系(隣国バングラデシュなどに住む住民)の不法移民」であるとされ、長年、差別と迫害を受けてきた。迫害を逃れるためバングラデシュに避難し、難民キャンプで暮らすロヒンギャは100万人を超えるとも言われる。そのほか、インドネシアやマレーシアに船で漂着する人々もおり、各国に難民としての受け入れを求めている。在日ビルマ・ロヒンギャ協会(BRAJ)によると在日ロヒンギャは約300人おり、うち約260人が群馬県館林市に住んでいる。

 私が彼らの食文化について調べるきっかけとなったのは、母からの一通のメッセージだった。日本に暮らすロヒンギャを自宅に招き、春巻きでもてなす計画だという。フリーライターとして専門紙などに時折記事を書く母が、無国籍をテーマとした取材で知り合った方だそうだ。ただ、母の作る春巻きは豚と牛の合いびき肉を使う。豚肉を禁忌とするイスラム教徒であるロヒンギャの人々は食べられない。ならば、どのような食事であれば喜んでもらえるだろうか。

 そんな思いでインターネットなどで調べてみると、カレーといったインド亜大陸やその周辺で食べられているものに近いということは分かった。ただ、具体的なレシピや味付けを紹介するサイトなどは見つけられなかった。

 さらに調べていく中で、興味深いイベントを見つけた。一般社団法人「Earth Company(アース・カンパニー)」が主催する「学びを台所から!食を通じて難民問題を理解するロヒンギャ料理教室」と題するオンラインの教室だ。この団体は、次世代につなぐ未来を創出することを目標に、環境問題や社会問題に取り組むアジアの起業家支援やイベント開催などを行っている。

 今回のイベントは、ロヒンギャから「ビリヤニ」を習うというものだ。ビリヤニはスパイスなどで味付けをした丸鶏もしくは牛肉や羊肉とご飯を一緒に炊き込む。ミャンマーでは「ダンパウ」とも呼ばれているらしい。

 料理教室は、10月17日土曜日の午前10時から約2時間の予定で行われるとある。参加者はロヒンギャの女性からオンラインで調理方法を学びながら、難民問題などについて話を聞けるという。それも台所で。

 参加費は4人分のビリヤニが作れるスパイス付きで1500円だった。近所のお気に入りのネパール料理店のビリヤニは1人前1000円だ。「これはお得なのではないか」。私は気がつくと参加申し込みをしていた。参加費を支払うと、しばらくして自宅にスパイスが送られてきた。

台所で学ぶ国際問題

 教室の先生は、BRAJの長谷川留理華(るりか、ミャンマー名ルイン・ティダ)さん(31)。1989年にミャンマーで生まれ、日本で難民申請して在留特別許可を得ていた父を追って12歳の時に来日した。しばらくは無国籍の状態だったが、2013年に日本国籍を取得した。9歳~6カ月の男女5児の母で、通訳の仕事をしながらBRAJの活動をしている。

 料理教室の参加者は私を含め群馬や愛知など全国各地に住む男女23人で、中には小学生ぐらいの子供もいた。私たちは東京都内にある長谷川さんの自宅台所とオンラインでつながった。

 教室は長谷川さんの手際よい調理と、料理方法についての説明で進んでいく。その合間にロヒンギャの現状や長谷川さんの体験談が語られた。事前にメールで送られてきた材料をそろえ、丸鶏の仕込みを…

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石山絵歩

外信部記者

1984年生まれ、2008年に毎日新聞社入社。岐阜・愛知県警、東京地検担当を経て、東京地・高裁で刑事裁判を担当。事件取材の傍らで、経済連携協定(EPA)によって来日したフィリピン・インドネシアからの看護師、介護士候補生などを取材。18年9月~19年5月、フルブライト奨学金ジャーナリストプログラムで南カリフォルニア大(USC)に在籍し、家事労働者について研究。