
共同通信記事(10月20日配信)には、「スウェーデン郵便電気通信庁(PTS)は20日、第5世代(5G)移動通信システムで、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)の機器の使用を禁止すると発表した。安全保障上の懸念を理由としている」とある。
第2次世界大戦後の米ソ冷戦下で「中立」を貫徹したスウェーデンでさえ、現下の米中第2次冷戦下では中国と距離を置く姿勢に走っている。現今の国際環境が意味するものを考える上では、スウェーデンの対応は実に興味深い材料である。
このたび、読者各位に呼び掛けるのは、薗浦健太郎<技術とデータ「独占」しようとする中国にどう対応するか>中山展宏<TikTokは安全か 経済安全保障上の脅威へ「遮断」ではない対応を>の両衆院議員の論稿をたたき台にして、米中両国の技術「覇権」闘争の渦中で日本が取るべき立ち位置を問う議論である。
立場が異なる「重要な隣国」中国
薗浦議員が書くところでは、「米国や日本など民主主義国家の技術革新は、人権や法の支配という一定のルールのもとに、社会の繁栄や経済的利益を求めるなかで発展していく。しかし中国は最終的にはすべて、中国共産党による体制維持が目的になる」とある。
また、中山議員は、「日本や欧州連合(EU)では、個人情報は個人に帰属されることを重要視し、堅牢(けんろう)に保護しなければならないという考え方が強い。米国では、プラットフォーマーを中心にデータ利活用による利便性向上のための革新的なサービスが生み出されることを受容する傾向にある。これに対し、中国では国家が一元的にデータを管理、監視することができる態勢だ。個人情報の保護というよりも公共の福祉や安全に利用するという考え方なのだろう」とある。
「技術は誰のためにあるか」という観点からすれば、日本が中国と近似した立場にないということは、既に世の「共通の認識」になっているといえる。
しかし、薗浦議員が「日中関係などを考えれば、米国がファーウェイに対してしているような特定の国や企業を名指しして排除するようなやり方は日本にはなじまない。また、サプライチェーンでみると主要7カ国(G7)に比べ、日本は中国製品の依存度が高い」と書いているように、日本では対中関係に「利得と便益」を期待する向きは殊の外、大きいであろう。
故に、「欧米とはまた少し違った方法を考える必要がある」という薗浦議員の指摘は、その具体的な政策対応をひねり出すのは「言うはやすく行うは難し」の類いであるとはいえ、その指摘それ自体に賛意を示す向きは、決して小さくないであろう。
中山議員もまた、中国の情報通信システムを念頭に置き、「そもそも利便性が高い秀逸なシステムだからこそ普及が進んでいるし、中国系の排除は世界に広がるサイバー空間を分断させることにつながりかねない。そして中国は経済上、重要な隣国だ」と書いているのである。
「個人の自由」か「利得や便益」か
結局のところ、この件では、「『個人の自由』か、それともそれを抵当に入れた上での『利得や便益』、あるいは『社会秩序の維持』か」が問われる議論としての色彩が、鮮明になっているのである。
菅義偉内閣の看板政策の一つは、「デジタル化の推進」である。当然のことながら、この国内施策もまた、米中「技術覇権」抗争の行方から大きく影響を受けることになるのであろう。パンデミックの世は、教育現場でのオンライン教育やビジネスの世界でのテレワークに示されるように、この「デジタル化の推進」の動きをいや応なく加速させるであろう。
そうであればこそ、日本が米中「技術覇権」抗争にどのように向き合うかは、対外戦略上の観点だけではなく、今後の国内社会の有り様を占う観点からも、真剣に議論すべき話題になる。読者各位の忌憚(きたん)ない議論を待望する。
櫻田淳
東洋学園大教授
1965年生まれ。専門は国際政治学、安全保障。衆院議員政策担当秘書の経験もある。著書に「国家の役割とは何か」「『常識』としての保守主義」など。フェイスブックでも時事問題についての寸評を発信。
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