原発処理水 足りない政府の情報発信と国民的議論

吉野正芳・元復興相
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吉野正芳氏=須藤孝撮影
吉野正芳氏=須藤孝撮影

 福島県選出の国会議員として、また復興相を務めたものとして、東京電力福島第1原発のタンクに保管されている処理水の海洋放出にはこれまでずっと反対してきた。どんなに薄めて流しても放出した時点で風評被害は起きる。「もうこれ以上、福島県の漁業者を困らせることはしてもらいたくない」という気持ちだった。

 しかし、政府は年内にも放出の判断をするだろう。漁業だけではなく、観光も含め、風評被害の対策を十分にしてほしい。

政府の説明は不十分

 内堀雅雄福島県知事が「処理水の情報が(国民に)十分に伝わっていない」と指摘していたが、全くその通りだ。政府のきめ細やかな情報発信が明らかに足りていない。国民の原子力に対する基本的な理解もまだ不足しているのではないか。放射線と放射能の違いさえ、よくわかっていない人が多い。ただパンフレットを配るだけではなく、動画なども利用してもっとわかりやすく、この問題を説明すべきだ。

 政府は2016年に経済産業省に「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(ALPS小委員会)を作って議論し、私も復興相時代には「小委員会の結論を待って判断する」という答弁をしてきた。しかし、長年議論してきた割にはあまりにも国民的議論は巻き起こらなかったというのが実感だ。国民的議論がなされたとはとても言えない。

業種、期限を限らない風評被害対策を

 先日、地元の漁業者と話をしてきた。アワビ漁をしている沿岸漁業者だが「もう後継者が誰もやろうとしない。海洋放出されれば誰もやらないだろう」と言われた。私は「そうではない。風評被害対策はしっかりとる」と説明した。福島県の沿岸漁業は「常磐(じょうばん)もの」と言われ、暖流と寒流がぶつかり、おいしい魚がたくさんとれる。この沿岸漁業をなくしてしまうことは考えられない。絶対なくさないように努力をしていきたい。

 漁業者に限らず、観光も風評被害を受ける。福島県いわき市の温泉施設「スパリゾートハワイアンズ」やいわき湯本温泉という昔ながらの温泉街もある。業種に限らず、期限も限らない賠償をしてほしい。

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吉野正芳

元復興相

 1948年生まれ。2000年衆院初当選。文部科学政務官、副環境相、衆院震災復興特別委員長、復興相などを歴任。衆院福島5区、当選7回、自民党細田派。